『恋遭』
弱虫チキンなあなたは、後天的な鳥目体質。
暗闇の私を見つけられない。見つけてくれない。
なのに私ばかり、あなたに盲目。
昼に会ってくれないなら、夜に遭おうよ。
くれぐれも、背後にはお気を付けて。
***
伝統的な伝言ゲーム、デオキシリボ核酸。
さあ、DNAを紐解いて。
変わっていると、思われたいわけじゃない。
違うのだと、気付いてほしいだけ。
***
『四月の告白』
ニットに包まれた白い吐息。
お日様が嬉しくて、ピョンと跳ねた。
冬が好き。
寒くて、キラキラしていて、もこもこしている、
そんな冬が、だ〜い好き!
四月が終わる頃、
ようやく素直に、そう思えるようになったんだ。
でも、喉元過ぎればなんとやら。
木枯らしが吹く頃には、
私はまた、恨めしそうな顔で
ぐるぐる蓑虫になっているでしょう。
***
『卒業できない』
制服より着たい服が見つからないから、卒業できない。
入学式の予定がないから、卒業できない。
それはさながら
「次の人を見つけてから」スタイルの恋愛のよう。
いつまでも、いつまでも
花束を贈って、第二ボタンを強請ってる。
卒業できない。卒業しない。
私はプロの、女学生。
***
あの日、この角で、
走ってきたあなたと、ぶつかった。
今年から車通勤のあなたは
もうこの細い道に、入ってこれない。
***
『はりぼてファンタジー』
優しく微笑む天使になれる。
冷たくわらう悪魔になれる。
全ては、あなたのお好みで。
私は変幻自在な概念の器。
実在しない、張りぼての幻想。
だから“あの子”だなんて、
具象の話はやめましょう。
張りぼては、壊れやすいのだから。
***
地に堕ちた反逆者。
自由意志の堕天使が、私。
カタルシスに相応しい悲劇は要らない。
穢れと喜劇で、生き抜いていく。
さあ、今こそ、聖戦の時。
でもその前に、鳥人間コンテスト。
***
『笑って、シックスパック』
近頃の、女の子事情。
表情筋はムキムキでも
腹筋は忘れられたプニプニ。
ファンデーションをいくら重ねても
面が白くなるばかり。
さあ、夏に向けてエクササイズ。
笑って、シックスパック!
***
真面目な人は、つまらない。
不真面目な人は、もっと退屈。
本気で、おかしくなりましょう。
***
『魔女の心得』
魔女になる為に、必要なもの。
黒い服、三角帽子、箒、黒猫。
妖しげな呪文に、薬草、小瓶、魔法陣。
それから、あと一つ。
可憐で憐れな、お姫様。
あとは彼女だけ。
彼女が来れば、私はすっかり
わるい魔女。
***
赤より紅い紅茶に、星を落として。
秘密の内緒を、いたしましょう。
ハロウィンでもヴァルプルギスでもない、ただの夜。
日が昇って、かまどで焼かれて、それでおしまい。
***
『合成ピンク』
真っ赤な嘘と
清楚な純白
混ざり合って、私が生まれた。
大人でもない
子供でもない
ただの私。
悪でもない
正義でもない
ただの私。
有機化合物、ピンク星人。
***
真っ赤なバラのようにも
白い百合のようにも
まだ、生きられない私。
桜を見に行こう。
白よりピンクの、可愛い色のやつ。
***
『血盟の夜』
慎重と言えば聞こえの良い、臆病者。
二の足を踏んでいるようなら
尻尾を巻いて逃げ出せばいい。
タップダンスがお好きなら
舞台も歌も差し上げましょう。
ここから先は、兵どもが夢の先。
明日を捨てる覚悟が出来たなら
今日の私に会いに来て。
***
弱虫は要らないけれど
毒のある毛虫なら、いくらかマシかもね。
***
馬鹿を見たくないなら、馬鹿に見られればいい。
馬鹿になりきれるなら、あなたは天才。
***
『こころの音』
針を千本飲んだ口は
優しい声で、綺麗な言葉を紡ぐでしょう。
けれど雄弁な百万文字の演説より
何気ない一回の頷きが
時に、私の世界に革命を起こすのです。
ですから、なので、つきましては、
無口で優しいこころの音に
耳を澄ませていても、いいですか。
***
『何もしない日』
何もしない日。
何もしていないのに、
お腹がすく。眠たくなる。
トイレットペーパーは痩せ、
冷蔵庫の野菜は傷んでいる。
細胞は勝手に生まれ変わるし、
外に出たら、靴の裏にガムが付いた。
何もしない日。
何もしない、をしている日。
***
ただ何もしたくないだけなのに、
何もできないのだと、自責の念にとらわれる。
時間を浪費してしまったことに、罪悪感と焦燥感が生まれる。
ああ、何もしないということは
なんて疲れることなのだろう。
***
『また一年』
クリスマスにケーキを食べる様な感覚で、
神社に初詣に行った。
ご縁があるように5円玉、なんて言っているけれど
ただお賽銭をケチる口実だ。
手水の水がお湯だったらいいのに、とか。
巫女さんのバイトって日給いくらだろう、とか。
除夜の鐘を前に、煩悩は108を超えていく。
帰りがけ、コンビニで買った年賀状を出した。
切手シートの一枚も当たったことが無いのは
実に納得がいかない。
何はともあれ、また一年。
暮れて、そして、明けていく。
おみくじは大吉か大凶が良いな。
そうしたら、話のタネになるから。
***
『冬色の森』
冬色の森は、暖かい。
金色のススキも、枯葉も、裸の枝も
みんな優しい、ぬくもりの色。
だから都会の君も
寒さで覆面強盗みたいになっている君も
可愛いマフラーと手袋をして、遊びにおいで。
松ぼっくりで、飾りを作ろうよ。
木の器とスプーンに、スープをよそってあげる。
さあ、早く早く。
今夜はきっと、星がきれいだよ。
***
今年の冬は、特別寒いから。
優しい言葉は、寒気でひび割れて
白い溜息に、寒気がした。
***
『真ん中の片隅』
ここは世界の中心で、同時に片隅。
セオリー通りの幸せを
顔の無い誰かと歩んで
一人で泣いて
一人で立ち上がって
一人で歩いていく。
***
『25時のシンデレラ』
25時のシンデレラ。
観衆の前で魔女裁判。
罪のないネズミを働かせて
食べ物を弄んだのですから、
さあ。報いを受けましょう。
***
靴下いっぱい分の、宝くじを買う。
株やFXには手を出せないくせして、
適当な6つの数字に、望みをかけている。
思考を放棄した怠惰な私は、
他力本願を「夢」と呼んだ。
***
『Another Story』
街に散らばるAnother Story.
あざといあの子も真っ赤なアザー。
多生の縁を糾って
いま、物語の集結を。
***
『隔絶された冬』
冬の夜は、隔絶された私。
重ね着の数だけ薄れるリアリティ。
マフラーの厚みは無口を強いて、
手袋は、感覚を殺した。
***
『藝術の秋。春支度』
美術館で絵を眺めた。
眼の精度が、向上したような気がした。
図書館で本を読んだ。
口の中で、語りたい言葉がもごもごしている。
映画館で映画を観た。
心が一つ、増えた様な気がした。
運動場でスポーツをした。
足が、どこまでも歩き続けられると言っている。
だから、春になったら会いに行こう。
まだ見ぬ友人、恋人と
何を見て、何を話して、心を震わせようか。
***
『美しい花だけではないのです』
ともすれば雑草にされかねない
道端の小さな花にだって
棘も毒もあるのです。
だから
そんなに簡単に
あなたの物語を飾るしおりになど
できるとは思わないでください。
***
『空想怪獣のうた』
電線類地中化計画。
いずれ、全ての電柱は地中に埋まるのだという。
そうしたら
今ある小説、詩、歌の中の電柱は、どうなるのだろう。
誰も知らない空想怪獣“デンチュウ”となって
未来の街に、孤独に佇むのだろうか。
羽休めの回数がグンと減ったカラスは
筋肉張った平成のプテラノドンになるのだろうか。
その頃、このメロディは
誰かの耳に 届くだろうか。