『無言の心』
「楽しい」も「悲しい」も
心に浮かぶ全てのことは言葉の形をしている。
だとすれば
言葉を失った心は、どうなるのだろう。
言葉を知らない心は
木々のざわめきのような
川のせせらぎのような
打ち寄せる波のような
きっと、そんなものに違いない。
***
美しく咲くことに命を懸ける。
唯美的な生き方。
花と女は、似ている。
あなたのためなら死ねるから
私のために生きてください。
***
自由を求めて、逃げ続けてきた。
逃げ出した回数だけ、
不自由になっていった。
***
あなたが居ると、
一人だけの秘密が
二人の「内緒」になった。
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夏の足。
光と影のストッキングには、
靴は似合わない。
***
夏が来る。夏が来る。
そして私を、追い抜いていく。
置いてきぼりが一人きり。
忘れられない夏に、囚われた。
***
『会いたくない人』
髪型がきまらないから。
メイクのノリがイマイチだから。
可愛い服が汚れるから。
傘が、二人の邪魔をするから。
梅雨だから、会いたくない人。
本当は、誰よりも会いたい人。
***
『妄想アクアリウム』
あなたが通り過ぎた後は
静かに、力強く、波が立つかのよう。
長い尾ひれを追いかけた言葉は
水に落ちた絵の具みたいに
くゆら、ゆら。
こより、こよって
消えていった。
***
まだまだ大きくなるからって、
大きめを買った制服。上履き。
そういう生き方で、いいのかもしれない。
***
『私活動』
私にできることなんてあるのか不安だけれど、
絶対にできないことを考えたら
それほど思いつかなかったから、
だからきっと、大丈夫。
さあはじめよう。
今日から、ここから
私活動。
***
膨大な情報と、目的を見失った解析システム。
20XX年。
世の中は大変複雑になってしまった。
もう、赤か青を切ればいいとか、
そんな単純な話ではなくなってしまったの。
***
『海鳴り』
目を瞑って貝殻を耳に当てると
海の音が聞こえる。
ごう、ごう。
巨大な何かが渦巻く音。
幼い頃は、それを貝殻の歌声なのだと信じていたけれど、
実のところ、手を当てても、同じ音が聞こえる。
ごう、ごう。
それは、私の内側から鳴り響くもの。
きっと、私たちがまだ魚だったころの記憶。
母なる海の、子守歌。
***
あなたが貝のように閉じこもって、
ひたすら静かに
一人きりで過ごすつもりだと言うのなら、
フライパンで過熱して
こじ開けてしまいましょう。
***
『胎』
0と1の間
そこに、私がいる。
産まれ、生き、老い、
そして
いつか還る者。
***
咲いた日のドレス。
枯れる日の死に装束。
純白に包まれて
生きて、死ぬ。
そしてまた、白紙に戻る。
***
『棲処』
団地。
人間の住まう場所。
集団の生活区域。
縄張りの中の緊張感と
独特の生活感に呑まれて、
静けさの中に息づく
姿の見えない気配に
ハッとした。
***
『路地裏浴』
森林浴。海水浴。
それもいいけど。
今日は、路地裏浴の気分。
しっとり
ひんやり
いい気持ち。
靴音が聞こえるまでは、
ここは私の、憩いの場。
***
もう、余計なことを言って
二酸化炭素を吐くのはやめよう。
黙って、光合成するの。
地球の為に。
私の為に。
優しい活動。
***
『紙風船』
行き場のない身勝手な願いを、
破れないよう、萎まないよう
そっと、そっと
内緒話をするように吹き込んだ。
私の想いで膨らんだ紙風船は
赤 白 緑 黄色
様々な色の光を透かして、
その中身をまるで
「ただ美しいだけのもの」にしてしまった。
***
地を揺らして山を崩し、
河を溢れさせて村を流し、
ありとあらゆる災いをもたらしてきた。
ああ 白羽の乙女よ
すべて
すべて君を欲するが故にしたことなのだ。
***
『人形になりたい少女』
心は全てあなたに捧げます。
だからどうか
抜け殻の私を硝子のケースに入れて、
永遠の安寧を下さい。
***
『童話信仰』
イヤリングは落とさないと
森のクマさんに出会えないから
親切な私は、あなたの耳のそれを
思い切り引っ張ってあげたの。
そしたら、ビックリ。
あなたの可愛いお耳
ちぎれちゃった。
「あらあら、ピアスだったのね」
***
どうして何も言わないの?
声が出ないの?
人魚姫でもないくせに。
物言わぬ花。
物言えぬ花。
あなたのことは
クチナシと呼ぶことにするわ。
***
『追想の夏』
あの日の夏へ、時間旅行。
セミの声が遠ざかって
また、近づく。
溶けきって零れてしまったかき氷も
君より早く落ちた線香花火も
みんな、みんな、
戻っておいで。
***
過去は美化されるし
未来は夢見がちだから
だから
私は今が、嫌い。
***
私と一緒に、未来人になりましょう。
1分、1秒でも先の未来へ
共にまいりましょう。
***
『ぶらさがり少女』
ぶらり、ぶらりと、揺れている。
自分ひとりじゃ生きられない
他力本願なぶらさがり少女。
携帯電話にじゃらじゃら付けられた
ストラップみたいに
本体よりも重くて派手なもの。
***
干された洗濯物の気分。
夕方から雨になるみたいだから
忘れず、早めに取り込んでね。
***
話したこともない、病気がちのクラスメイト。
ただ近所だからという理由で
学校のプリントを届けに来た。
大きなお屋敷には、秘密の隠し部屋。
素敵な素敵な、不思議の予感。
***
『春眠暁を覚えず』
菜の花が咲く頃、私は眠ってばかりいる。
春の陽気が心地よくて
気が緩んでいるのではないの。
今年の春が寒すぎて
まだ冬眠から目覚められていないだけ。