『人体実験』
始めましょう、人体実験。
切って開いて、中身の確認。
ただ、あなたの事を知りたかっただけなの。
それがどうしてこんなに、取り返しのつかないことになっちゃったのかしら。
本当は、ちょっと話が出来れば、それだけで良かった筈なのにね。
初めて見るあなたの中身はわたしとそっくりで、
あなたじゃないみたいだった。
***
『夏の抜け殻』
蝉は嫌いだけれど、蝉の抜け殻は好き。
琥珀色にキラキラ輝いてて、
ちょっぴりお日様みたいな香りがするから。
壊れやすいところも、宝物って感じがするでしょう?
***
『だから恋は嫌』
あなたのことを好きな自分が、大嫌い。
すごく自己中心的で、我儘で、天邪鬼で、
周りが見えなくなって、頭が悪くなっちゃうの。
いつもはこんなんじゃないのよ、私。
落ち着いてて、賢くて、親切だって、よく言われるんだから。
本当に、本当なんだからね。
***
『廃都“竜宮城”へ』
煌びやかな摩天楼は砂上の楼閣。
かつて空を支配していた桃源郷は水底に沈み、
金銀財宝・夢も泡沫となりました。
さあ、廃都「竜宮城」へご案内いたしましょう。
***
『French Girl』
赤・青・白。今日の私は、おフランス気分。
鞄の中に、朝食の残りのバゲットと葡萄酒を詰めて
セーヌ河のほとりで、愛の歌を歌うの。
私の事は、クリスティーヌって呼んでね?
***
『頽廃シンデレラ』
優しい魔法使いも、
王子様も、
意地悪なお姉様方さえ、ここには居ない。
ただ独り、灰を被っているだけ。
***
『既視感シンドローム』
見飽きた見知らぬ顔。
聞き飽きた今日発売の新曲。
義務付けられた流行。
いよいよ、人類統一化計画が始まるみたいです。
***
『最高気温30度超』
最高気温30度超えの真夏日。
茹だる様な暑さに、陽炎がはしゃいでいる。
ああ、冬には寒いより暑いほうがマシだって思ったのに、
今は全くの逆。
あといくつ寝ればお正月か、そればかり考えてる。
夏なんて全然、良いことないんだから。
塩素の香りと、ラムネ瓶のビー玉と、金魚すくいと花火とスイカ、
怪談話と、浴衣は、嫌いじゃないけれど。
***
『Rainy Day.:。+゚』
今日は朝から雨だったから。
何だか色々気乗りしなくて、
何時もの私を全部、すっぽかしちゃった。
買ったきりで着る機会の無かったワンピースを着て、
昔みたいな三つ編みおさげにして、
さあ、行こう。雨の日のお散歩。
真面目な皆勤賞の私には悪いけれど、
何となく、どうしても、そうしたかったの。
***
『水中プラネタリウム』
雨が降ったりやんだりするから、
今日のデートの行先を、遊園地から水族館へ変更した。
水槽の中で煌めく魚たち。
そこはまるで、青い宇宙みたい。
ねえ、私達、
もう少し未来になったら、宇宙に引っ越しましょう。
宇宙に雨は無いから、いつだって遊園地に行けるもの。
***
『紫陽花の夢』
梅雨に塗れ、匂い立つ紫陽花。
それは儚げでありながら、私を悠久へと誘う。
ゆめ、うつつ。
うつら うつら 移ろいゆく。
雨と花のささめきに耳を澄ませて
私は薄紫色の夢に、溶け込んだ。
***
『白黒』
オセロ。チェス。天使と悪魔。ピアノの鍵盤。横断歩道。
昨年の夏、二人で見たシャチ。
今年の夏、二人で見に行くパンダ。
みんな白黒はっきりしているのに
私達だけ、いつまでもグレーゾーン。
***
『やさしいどくさいしゃ』
諸君、私に従い給え。武器を持つことは許さない。何故ならば、諸君らの身体は脆いからだ。悲しみを抱え込んではならない。諸君らの心は弱いからだ。空腹ならば食を、疲れているならば睡眠を、存分に貪るがいい。週に2日は必ず休め。よく学び、よく遊び、人生を充実させるのだ。人を愛せ。人に愛されろ。常に幸福であれ、我が民よ。なお、従わない者は、即刻処刑する。
***
目も当てられないことになる前に、抉ってしまいましょう。
***
メルヘンゾンビは傷みやすい自己愛脳。
***
『人工廃棄物』
あなたに要らないと言われたから
その日、わたしはガラクタになった。
壊れたから棄てたんじゃなくて、 棄てる為に壊したんでしょう?
***
『私の箱庭』
可愛い小鳥たちの歌で、私は目を覚ます。
葉っぱについた朝露で顔を洗って、花の蜜を少しだけ舐めて、
それから森の中を散歩するの。
今晩はお星様が降るのだと、
物知りな木のおじいさんが教えてくれた。
お星様って、いろんな色をしていて、とっても甘いから好き。
傘を逆さまにしたら、きっとたくさん取れるわね。
***
『Ms.Summer girl』
金魚とソーダ水に恋する季節。
日焼けはしちゃうし、
ラムネのビー玉は上手く取り出せないし、
浴衣も綺麗に着られない。
なにより暑がりのあなたが離れてしまうから、夏は大っ嫌い!
でも、お祭りも花火もプールも海も、全部行こうね。
約束ね。
***
『交信少女』
こちら地球。こちら地球。
火星の皆様、いかがお過ごしですか?
ご報告します。人類は滅亡しました。
地球は枯れ果て、無価値なただの石ころです。
ですからどうか、侵略なんて無意味なことはお考えになられませんように。
***
『人工精霊』
ビル風に宿る、人工精霊シルフ。
日焼け止めと香水の匂いを纏って、
コンクリートをハイヒールで闊歩する。
彼女は、為替レートに詳しくなった。
彼女は、一つの呪文さえ忘れてしまった。
***
『プリンセス時間』
制服を着ると、無敵のヒロイン気分になれるの。
声も足も王子様も欲しい我儘な人魚姫。
24時間年中無休のシンデレラの魔法。
眠り姫は、昨晩遅くまで長電話していて寝不足だわ。
***
『森理学』
森はなんでも知っている。
ここには一も十もないけれど、本当に大切な零がある。
難しい言葉に囲まれて満足していた私が、とてもちっぽけに思えた。
***
『骨抜きコーラ』
炭酸を飲み続けると骨が溶けるって知ってた?
まあ、迷信だけれど。
そういえば、駅前の広場に爆弾をしかけたのよ。
ええ、勿論ウソ。
怒った?ごめんなさい。悪い女に憧れてるの。
きっと、第三次反抗期なんだわ。
***
『自生少女』
世界で一番大きな植物を知っている?
キノコよ。
地中深くに何トンもの菌糸体を張り巡らせているの。
どうしてそんな話をするのかって?
特に深い意味はないわ。
ただ私をここに置き去りにしたこと、後悔しないと良いわね。
***
『地球色ワンピース』
眩しい初夏の太陽。青い空、白い雲。
地球色のワンピースを着てみたら、なんだか旅に出たくなった。
黄金の砂漠。蜃気楼の先のオアシスへ。
スリルと財宝を求めて、海賊たちのカリブの海へ。
でもまあ今日は、一つ先の駅まで。
***
『異物』
私はオーパーツ。遭難中のタイムパトローラー。
場違いな6月の桜。 日常の中の、非日常。
まるでコーヒーに零したミルクのように
もやもや ゆらゆら 煙のように溶けていく。
一見すれば、完全に飲み込まれて
消えて無くなってしまったように見えるでしょう。
けれどその一滴は
確かに全体を濁らせていた。
***
出来るだけ「長い間」、生き急いでいたい。
***
『春雨』
桜を愛でるあなた。
散りゆくから美しいと言うならば
私も覚悟はできている。
***
『空想奇譚』
オリュンポス、バルハラ、高天原、桃源郷、仙界、竜宮。
いつだって、どこからだって行けるわ。
私の中の神話体系。
あなたも、その中の一つになるの。
***
『メイド in Japan』
午前中に居らっしゃったお客様。
シルクハットと懐中時計の、
とってもハイカラな若紳士。
海の向こうから、遥々お舟でいらしたんですって。
わたしも一度でいいから、世界を旅してみたいわ。
(給湯室より、とある使用人の戯言)