『就業時間終了につき。』
毎日が華の金曜日。
お洒落なバーで一夜限りの恋を咲かせて。
キラキラ、パチパチ。シャンパンの泡みたいに弾けるの。
シャネル・エルメス・ルイヴィトン。
スポーツカーを乗り回したら、気分はゴシップ誌のセレブだわ。
でも
本当の私は
特売品のもやしを炭酸の抜けたコーラで流し込み、
疲れ切ってこたつで眠る一般ピーポー。
***
『月曜日の白ウサギ』
憂鬱な月曜の朝。
重たい足取りと溜息のもとへ、彼女は現れる。
「アンダーランドへようこそ、アリス」
***
『実現された奇跡』
かつて「不可能」とされていた青いバラは、
飽くなき人々の追及により、実現。
「奇跡」と呼ばれるようになった。
私は、そうしてまた一つ、
世界から夢が消えていくのだと思った。
***
『幽霊屋敷』
見られている。聞かれている。
けれど、
気付いていることを悟られてはならない。
***
『PINK』
桃色は、盲目的な少女の憧れ。
例えばそう、
マシュマロのベッドで眠って
回転木馬の夢を見ること。
汚いものは嫌い。大嫌い。
***
事実は小説よりも奇なり。
その言葉に、惨めなくらいに縋ってる。
妖精は死んだ。小人も死んだ。
排気ガスで死んだ。
殺された。
***
シャーベットみたいな冬の雨。
傘をさしているのに、靴下までびっしょりで、
冷えた指先がジンと痛んだ。
凍える私は、マッチ売りの少女気分。
電気ストーブの夢を見る。
***
線路は続く。どこまでも。
時には遅延したり、運休したりもするけれど
私は進む。進み続ける。
終わらない、私の物語。
***
ファーストフードで出来た私。
ファストファッションみたいな生き方をして
コンクリートの棺に収まる。
***
「疲れたな」と思い、立ち止まる。
何の気なしに振り返ると、
取りこぼしばかりの日常が散らかり放題になっていた。
その中心に立ち尽くす、無愛想で目つきの悪い女の子。
私は彼女をよく知っている。
本当に大切なもの。必要なこと。
一人が二人になる前に、本当の自分と向き合おう。
***
学生時代、午前0時の合わせ鏡の七不思議に挑戦した。
その時行方不明になった友人たちは、今日も反転世界で笑ってる。
なんてね。
え?何の話かって?
私に友達がいない言い訳よ。
***
『私』
私について語るには、
1分もあれば充分だし、
一生かけても足りないくらい。
平々凡々な私の人生。
世界で一つの物語。
***
『童話の森』
降り注ぐ穏やかな陽光に、空気が煌めいている。
あんなにせっかちだった時間も、ヒステリックな喧噪も、
本当に嘘みたいに、優しい世界。
満点の星空や、小川で輝く虹色の鱗、それからあなた。
最近見なくなったと思っていたものは、全てここにあったのね。
ねえ、わたしをあの日みたいに、アリスって呼んでみて?
***
『魔女』
その唇が紡ぐのは、呪いの言葉。
あなたの日常に、破滅と快楽を齎す災い。
今日も、都会の片隅で。
***
瞼の裏を、走馬燈が駆け巡る。
過ぎ去るものは、皆一様に美しい。
過去は事実。
美化された真実。
***
『鬼がわらう』
明日の事を言えば鬼がわらう。
あなたに明日なんて無いから。
***
『少年』
虚勢を張るための臆病なナイフ。
少女よりも凛と鋭く、 脆く儚い、 少年。
***
『早咲きの春』
その日はいつもより少しだけ暖かかったから
うっかり春だと勘違いしてしまった。
どうしよう。来週には雪が降るって、小鳥たちが噂している。
ねえ、お願い。春が来るまでの間だけでいいから。
綺麗な花瓶じゃなくていい。500mlのペットボトルでいいの。
暖房完備のあなたのお部屋に、お邪魔させて。
***
『カッコイイ女』
カッコイイって、案外簡単。
ファー付のコートに大人っぽいパンツスタイル。
何でも分かったような顔をして、
何にも知らないふりをして、口を閉ざしていればいい。
これまでも、これからも、そうして私は生きていく。
強く、臆病に、独りきりで生きていく。
***
『マリオネット』
くるくる踊る。狂ったように。
我儘なマリオネットの糸は、絡んで絡んで、
いつの日か、操って良い気になっているあなたを巻き込むの。
「今日はいつもより、多く回っておりますわ」
***
『厄割り石』
自慢の肺活量で体中の厄を吹きつけた杯は、
石にあたって粉々に砕け散った。
スッキリした筈なのに、
これで、新しい空気を吸って、歩き出せるはずなのに、
私は暫く立ち尽くしてから、破片を拾い集める。
まだ忘れられない。
まだ、もう少しだけ、悩んだり悲しんだりしていたいの。
***
『ハロー!』
ハロー、ハロー、輝く世界!
今日から始まる、新しい私は、
いままでより、きっと、もっと、ずっと、私らしい。
さようなら、昨日までの私!
***
『春の夢』
儚くて朧な春の夢。
夢の中に咲く花があまりに綺麗だったから、
こっそり手折って、持って帰ってきてしまったの。
桃色の香りに酔わされて、
わたしは、いけない春盗人。
***
『機械式の心臓』
無機質で無感動。
不変、永遠なるもの。
ゼンマイで動く、私の心臓。
でも、案外壊れやすいの。
***
『午後0時の亡霊』
休日、お昼のショッピングセンターは、
家族連れやカップルで賑わっている。
そんなところを一人で歩いていたから、狙われた。
真昼間から、ドッペルゲンガー。
それは私と、入れ替わる。
***
『羽化』
日差しを浴びてキラキラ輝く“私の抜け殻”。
初めて外から見るそれは、今まで気が付かなかったけど、
結構、上等なものに見えた。
私はそれをそっとポケットに忍ばせて、
素知らぬ顔で歩き出す。
時期が来たから、大人になる。
それだけのこと。
***
『最果にあるもの』
死んでゆく世界。
そしてまた、生まれ変わる。
***
『パーティーの前』
お父様もお母様も、
今夜のクリスマス・パーティーの準備で忙しいみたいだから。
パーティーの前の静かなお屋敷は、
私だけの夢見るドールハウス。
***
『Merry Christmas』
クリスマス・イブも、クリスマス当日も、
いつも忙しいあなたのことだから、気が付かなかったでしょう?
でも、大丈夫。
クリスマスの魔法はツリーの下から、
わたしがこっそり持ってきたから。
***
『おとぎの国のクリスマス』
おとぎの国へようこそ。
ここでは、毎日がクリスマスで、ハロウィンで、イースター。
願う心、信じる心が、奇跡の魔法を生み出すの。