ある日突然、僕は異世界の勇者となって、世界を救うために悪者と戦わねばならなくなってしまった。旅のお供は聡明な神父と、馬が二頭。それから、僕の正義と勇気。

そして、長い長い戦いも遂に終盤に差し掛かり、僕は死闘の末、宿敵である悪の剣士を倒したのだ。砕けた魔剣エクスカリバーでぼろぼろの体を支えながら、姑息で卑怯な彼が言う。

「ああ、神よ!太陽の王よ、月の女王よ、故郷の友たちよ!私は負けてしまったのだ。もうじきこの世界は闇に包まれ、花は枯れ、人々は一人残らず魔物に喰われてしまうだろう。暗く冷たい、冷めることの無い悪夢の始まりだ。私は怨もう。皆を守れなかった弱小な自分を、地獄で業火に焼かれながら怨み続けよう!!」

酷く濁った目をした男は、苦しそうに血を吐きながら僕を見た。

「美しき黒髪の少年よ。君はきっと、大きな間違いを冒している。君の漆黒の瞳は、光りの下で輝いてこそ、美しいのだというのに」

まっすぐな目をした男は、それだけ言うとパタリと動かなくなった。ああ、これで世界が救われる!やったんだ、僕は英雄だ!!そのとき、背後でいきなり神父が狂ったように笑い出した。生温い風が肌を撫で、腐ったような匂いが鼻を刺す。

「流石だ勇者様!これで我らの世界は救われた!」

彼の言葉に微笑んだ僕を、どこからともなく黒い影の腕が捕らえる。

「ようやく、ようやく我らが世界を制するときが来たのだ。手始めに地上の人間共に知らしめてやろう!長い間地下に閉じ込められていた我らの怒りがどれほどのものかを!」

熱に浮かされたような神父が、僕に笑いかけた。

「君は非常によくやってくれたよ、異世界の勇者様。我らはこれから先、何千何万年と君の名を称えていくことだろう」

君は我らの救世主だ、真の英雄だ!

僕は僕を称える魔物たちに肉を裂かれ血を啜られながら、薄れ行く景色の中でその言葉を噛み締めていた。英雄、英雄、英雄。僕が英雄!



僕は最後に、光が闇を照らしているのを見た。

(そうして悪魔に呼ばれた異世界の少年は、闇が光を飲み込んでいく中で、ゆっくりと意識を手放しました。……え?あまりに救いようの無い話じゃないかって?この後どうなったか、だって?さあ。きっとえげつのない話がつらつらつら、)


(天の声「もう一度物語を初めからやり直しますか?」) inserted by FC2 system