Act31.「帰還」



 バグの中。不思議な黒一色の空間はつい最近通って来たばかりだったが、既に懐かしく感じられた。今のはじっくりその空間を観察できるくらいには、心に余裕を持っている。この世界に来てからマンホールの長い穴、青バラの地下水路、空間の壊れた侯爵邸、時計塔のバックグラウンドと、色々おかしな場所に行った。その中では、このバグ空間は比較的平和である。

 は橙から渡された計測器を上手く使いこなせる気がせず、ピーターに託していた。大人しく彼に付いて行きながら、最初にこの空間を通って来た時のこと、セブンス領に着いたばかりの時のこと、今この時に至るまでのことを振り返る。彼とは色々あったな、と思った。……ピーターは優しくなかったが、それでもいつも助けてくれた。自分が不思議の国へ連れて来た事に少なからず責任を感じているのだろうか? それとも、放置すると誰かに何か言われるから仕方なく、だろうか?

「もう少しだよ」
「ほんと? 何だか帰り道の方が短く感じるなあ……あれっ? ていうか、どこに出るの?」
 はバグ空間に吸い込まれた時の状況を思い出し、ヴォイドに囲まれたあの場所に戻るなら相当の覚悟が必要だと思った。それしかないのであれば、受け入れるしかないが……。の考えを察したのか、ピーターが「大丈夫」と言う。

「座標をずらしてる。戦場のど真ん中に出るようなことはない」
「そう。良かった」
 は胸を撫でおろすが、自分はさておき重要な戦力であろう彼が戦場から離れてしまうのは、あの場に残してきた人々を思うと心配ではあった。しかし……ピーターは一見分かりにくいが、絶対に疲れている筈なのだ。ろくに睡眠を取っていないだろうし、バックグラウンドでの戦闘の後、休む間もなくここに居るのだから。その腕や手には、よく見れば傷も多い。アドルフの荒れ具合が派手だった分、目立たなかっただけだ。早く安全なところでゆっくり休んで欲しかった。

 穴の先に白点が見える。あれは出口だ。は気持ちが逸り早足になる。その時ポケットに不思議な重みを感じて、何気なく手を差し込んだ。

 ――ポケットの中には、熱くて冷たい、不思議な感覚。火傷を恐れた手が脊髄反射でビクッとなるが、触れても大丈夫だと分かると恐る恐るそれを掴んで取り出す。手の中にあるのは、尖ったところの無い円みを帯びた石だった。明るく燃えるその色は赤というより橙色に近い。はもうそれが何であるかを知っていた。

(どうして“アリスの残留思念”がここに? いつの間に?)
 時計塔でのいざこざの最中、ポケットに潜り込んだのだろうか。だとすれば何故時計塔にこれがあったのか。

(……侯爵邸を襲ったヴォイドは、アリスの意志が具現化したもの。じゃあ、あれは全部アリスが仕掛けたってこと? オレンジさんが死んでしまったのは、アリスの所為――)

 は大きくふらつき、その場にしゃがみ込む。異変に気付いたピーターが立ち止まり、駆け寄って来た。残留思念が体に溶けこみ、眩暈のような眠気のような靄が体を支配していく。この状況を伝えきれるだろうか?
 は「……ピーター」と、彼を呼ぶ。彼の名前をこうして呼んだのは、初めてかもしれなかった。

「アリスの、残留思念……大丈夫、少し、眠るだけ……」
 は自分でも何を言っているのか、よく分からなかった。とりあえず心配無用だと伝わっているのを願うばかりだ。ピーターは、アリスの残留思念を手にした時の反応として一時的に気を失い、眠りにつくということを知らないかもしれない。もっと色々な話をしておけばよかったな……。これで終わりという訳でもないのだから、目が覚めてから話そう。

「あとは、よろしく……」

 とりあえず今は、おやすみなさい。



 *



『あら、あなた……きょうはないているのね』
『だって、かなしいんだ。きみはどうして、きょうはないていないんだろう』
『だって、かなしくないんだもの。みてよ、こんなにきれいなほしぞらよ。どうしたってなけやしないわ』
『それがかなしいんだ』
『かわったひとね。あなたって、なんにでもないちゃうんじゃないかしら』
『そうかもしれない。あさのにおいも、ゆうがたのむしのこえも、ぜんぶかなしい』
『“してき”ね。でも、どうして?』
『だってちょっとまえまで、ここにはそんなものなかった。ここにはじかんなんてなかった。かわってしまうものなんて、ひとつもなかったのに。えいえんだったのに』
『かわってしまうのがこわいの?』
『そうだよ。なにもかわらなくていい。きみも、かわらないでいて』

『うーん……それはむりだわ。わたし、いまよりもーっとあなたと、なかよくなるんだもの』
『……!』
『この“かわってしまう”もこわい?』
『……こわくない』

『よかった。さあ、じゃあもうおそいから、かえりましょう』
『……やっぱりじかんは、きらいだ』



 *



 は息苦しさに目を覚ます。どうやら自分はどこかに突っ伏して眠っていたらしい。授業中の居眠りを思い出したが、それと混同するほど寝惚けてはいなかった。ここは学校でも、元の世界でもない。

 顔を上げると、テーブルの向かいには久しぶりに見る青年……大きなハートの描かれたゼッケンが最早名札になっている、エースの姿。テーブルや椅子、周りの様子を見るに、ここはカフェなのだろう。目の前にはすっかり冷めた紅茶が一杯。空のティーカップが一つ。店内は広く、優雅なクラシックミュージックが緩やかな時間を作り出している。エースに似た格好の者、いかにもな給仕服からエプロンだけを取ったような者、礼服を着た紳士まで、様々な人が各々好きに過ごしていた。(これはどういう状況だろう?)
 
 エースは目を覚ましたに「あ、おはようございます」と爽やかに声を掛けてくる。は「おはようございます」と早口に返して、早速彼に説明を求めた。

 ――エースの話によると、ここは王城の敷地内にあるカフェ。今は17月22日の夜で、既に十二番地区での戦いは終わっているらしい。21日に達が姿を消してから、勢いを失ったヴォイド達。騎士団とトランプ軍は何とかそれを退けることに成功したという。ジャックと常盤が無事であると聞き、はひとまず安心した。まだ現場の後処理は続いているが、前線で戦っていたエースはつい先程ようやく、休息のため城に帰還できたとのことだ。

 そんな彼が何故とこうしてカフェに居るのかというと、城に戻る途中でピーターに遭遇し、眠っているを預けられたからだという。ピーターはバグに巻き込まれていた間の事について報告や確認をしなければならず、それを終えて自分が戻るまでの間、を見張っておけと言ったらしい。
(見張っておけって……まあ、確かに、また何かに巻き込まれるかもしれないもんね)

「本当は救護室にでもご案内したかったのですが、先日の戦闘の負傷者でいっぱいでして」
「エースくんは大丈夫だったの? ……ですか?」
「ええ、幸い。あと別に敬語じゃなくていいですよ。僕のこれは癖みたいなものですから」
 エースは少年っぽく笑った。
 その後の会話で分かったことだが、どうやら彼はと同い年らしい。気さくで話しやすく、気兼ねなく接することが出来た。最初に殺されかけた時のことが嘘に思える。

 エースはの疑問に答える形で、戦いの詳しい話を聞かせてくれた。彼はどうやらジャックに並々ならぬ憧れを抱いているようで、熱っぽい語りには若干脚色が混ざっている気がしなくもないが、とりあえずエースの胸を震わせる熱い戦いだったらしい。エースは一頻り話すと満足したのか「さん達は、あの後どうなったんですか?」と話を振ってきた。

 ……どうなったのか。色々なことがあり過ぎて、何から説明していいか分からなかった。とりあえず掻い摘んで要点だけを話すと、エースは元から丸い目を更に丸くして「そんなことがあったんですか」と、疑ってはいないものの信じられない、といった様子だった。

「そういえば……セブンス領は先月ヴォイドの襲撃に遭っていましたね。あそこの自警団は中々の装備を揃えていますし、近隣領からの迅速な援軍もあり、大幅に地図を書き変えるような被害は食い止められたようですが」
 エースの言葉には思わず身を乗り出す。自分は何をぼーっとしていたのだろう、寝惚けていたに違いない。(ここは未来だから、彼はあの後のことを知っているんだ!)

「だいだ……公爵夫人は? 侯爵様は? 無事だったの?」
「え、ええ、はい。お二人はご無事のようですよ。ただ侯爵邸は虚無化の被害に遭ってしまって……今は別の場所に、新しく建て直し中らしいです」
 は二人の無事に深く安堵の息を吐き、椅子にぐったり座り直す。そして記憶の中から“侯爵邸”がすっぽり抜けていることに気付いた。時計塔の隣にあった、恐らくは大きな館……そんなものがあった気はするが、なかった気もしてしまう。ただ、恐らくそこで出会ったのだろう(でなければ辻褄が合わない)メイドの姿はよく覚えていた。侯爵邸は記憶から消えてしまったが、オレンジのことは忘れていない。何故だろう? 時間くんが言っていたように、残留思念という“実体の消失後の状態”で、自分が新たに認識したからだろうか?

 は自分が何を覚えていて、何を忘れているのか怖くなり、一つ一つの記憶を丁寧に掘り起こした。橙、アドルフ、橙の家、キルクルスの街……ユリリオもマーマレードもしっかり思い出すことが出来る。その鮮明な記憶は思い出すと同時に、彼らが無事だとに教えてくれた。ホテルもカフェも図書館も、壊れかけていた時計塔もまだそこに建っているみたいだ。

さんは大変な時のセブンス領に居たんですよね? 本当にお疲れ様です。結構しぶといんですね」
 紅茶を飲みかけていたは、エースの発言に咽た。彼は悪意のないやんちゃな表情を覗かせている。礼儀正しそうに見えて結構遊び心満載の青年らしい。

「まあね。といっても……わたし一人じゃ戻って来れなかったと思う」
「ああ、確かに。ピーターさんが一緒で良かったですね。あの人、頼りになるでしょう」
「えっと……うん」
 そう。確かに頼りになった。しかし、今後も彼に頼らせてくれる隙があるかは分からない。
 ……それよりも、にはエースがピーターに対して好意的な発言をすることが意外だった。の知る彼ら二人の接点といえば、自分がこの世界に来たあの日しかない。あの時、エース達トランプ兵に捕らえられた自分を連れ出したピーターは、トランプ兵に恐れられていた。彼の態度もトランプ兵達を脅すもので、とても友好的な関係には見えなかった。

「エースくん達とあの人は、もっとギスギスした関係かと思ってた」
「え? ピーターさんとですか? そんなことないですよ。どうしてですか?」
「だって……ほら、わたしがこの国に来た時……」
「あ、ああ。その節はすみませんでした」
「いや、わたしはいいんだけど」
 よくはないが、今はそれはどうでもいい。あの時ピーターはエースの同僚を撃っていた筈だ。それが気にする程でもない些末な事になり得るほど、エースは物騒な世を生きているのだろうか?
 エースは遠い目をして、あの日を思い出す。

「確かに、あの時のピーターさんはおっかなかったなぁ。威嚇射撃された奴なんか泡吹いて倒れてましたし」
「威嚇……?」
「あ! さてはさん、ピーターさんが本当に僕らを撃ったと思ったんでしょう? まさか、そんな訳ありませんよ。貴重な城の兵を悪戯に減らすような真似、あの人はしませんって」
「へ……はあ」 
 は間抜けな声を上げる。エースから知らされた事実に、無性に安心している自分がいた。別にピーターが、自分の知らない誰かを撃っていても、正直なところそれがどうしたという話だが……そうではなかったという事実に何故か喜んでいる。

「あの人、怒ると怖いんですけどね。普段は割と話しやすい人ですよ。他の偉い方みたいに威張り散らしてないので」
「そうなんだ」
 の顔に明るい笑みが咲く。思わず綻んでしまった、とでもいうようなその笑顔にエースは視線を彷徨わせ……話題の人物を見つけた。

「あ、ピーターさん」
「え」
 がエースの視線を辿ると、いつからそこに居たのか、カフェの入口付近に立っているピーターと目が合う。その顔は無表情とは若干違う、何とも分かりにくい微妙な顔だった。(何を考えているんだろう?)

「ピーターさん、お帰りなさい。じゃあ僕は城に戻りますね」
「エースくん、色々教えてくれて有難う。またお話しようね」
「はい」と爽やかに返事をして、エースは空になった自分のカップを持ち、備え付けの布巾でテーブルを拭くと、とピーターにそれぞれ一礼して去って行った。
 ピーターは溜息交じりで、エースと入れ替わるように席に付く。はピーターの服装が変わっている事に気付いた。といっても深緑色のシャツの色味が少しだけ青味がかり、うっすら柄が入っているというくらいで、殆ど変わらないが……は自分だけ着替えて来た彼を羨ましく思い、早くお風呂に入りたいし着替えたいなと思った。時計塔で濡れた部分は大方乾いているが、どこかジメっとしていて気持ち悪い。

「何、話してたの」
 ピーターの最初の言葉はそれだった。

「エースくんと? わたし達が居なくなった後の話とか、色々聞いてたんだよ」
 の回答の何が気に食わないのか、不機嫌そうに「ふうん」と返すピーターに、は気まずくなった。エースと話し込んでいる内に残り半分になっていた紅茶を一気に飲み干し、話題を変える。というよりは本題に入る。

「わたし、突然眠っちゃってごめんね」
「ほんと、よく倒れるよね」
「まあ不可抗力というか……色々事情があって、」と話し始めようとしただったが、その腹の虫が小さく鳴いたため、恥ずかしさに言葉を途切れさせる。最悪なタイミングだ。空腹状態に飲み物だけ入れたのが、下手に刺激してしまったのかもしれない。ピーターはテーブルの横に立てかけてあったメニュー表を手に取り、の前に広げた。

「とりあえず、何か頼む?」
「うん……何かおすすめはある?」
 このカフェは彼の行きつけらしく、ピーターはいくつかのメニューを挙げる。彼の勧めるものは不思議なくらいの好みと一致していた。注文したのは珈琲二つ、クロワッサンサンド二つ、ショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキ、モンブラン……お勧めと欲望に任せていたら、ケーキバイキングみたいな卓上になってしまった。甘いものが目の前に並ぶと、ピーターは機嫌を直したみたいだ。(やっぱりこの人、相当な甘党なんだろうな)

「いただきます」と手を合わせて、はクロワッサンサンドに齧りつく。何層にも重なった香ばしい生地。シャキシャキの瑞々しい野菜と、濃厚なクリームチーズ、相性抜群のスモークサーモン。食べている最中からより腹が空く味だ。

「美味しいっ、生き返る!」
「君は本当に、美味しそうに食べるよね」
 ピーターにまじまじと見られ、は顔が熱くなるのを感じた。(食いしん坊キャラになっていたら、嫌だな……)
 ちょっと顔を逸らして、二口、三口と頬張る。空腹が落ち着いてくると、は珈琲で口の中をさっぱりさせてから、先程の続きを話した。

 アリスの残留思念がポケットの中に入っていたこと。見つけたのは今回で三つ目で、手にする度、毎回不思議な夢を見ているということ。その夢の話を誰かに詳しく教えるのは初めてだった。ピーターはの話を聞きながら、黙々とクロワッサンサンドを食べ進めている。カリカリの生地をボロボロ零さない綺麗な食べ方は、見ていて気持ちが良かった。

「夢……そういえば君、寝言言ってたよ」
「えっ、うそ?」
「ほんと。誰かの名前を呼んでたかもしれない。よく聞こえなかったけど、多分僕が知らない名前だよ」
 は何とかその寝言を思い出せないものかと思った。もし本当に名前なら、自分の知る人物の内の誰かなのか。もしかするとアリスの残留思念の影響で、知らない名前を口にしていたかもしれない。しかし、いくら考えても分かりそうもなかった。

 は生クリームたっぷりのショートケーキを堪能しながら、今度はピーターから話を聞く。バグ空間を抜けて出てきた場所は、王都付近の街外れだったらしい。そこは彼の指定位置と若干ずれるが、概ね合っていたようだ。を戦場に戻さない方が、あの場の全員が安全だと踏んだらしい。
 しかし戻ってきた時間については――想定通りではなかった。時間軸のズレか、バグ空間中の時間の進みが異様に遅かったのか、時間くんがループの負荷分を世界中に肩代わりさせたことによる時間の乱れか……とにかく、戻って来た時には丸一日が経過していたのである。
 その後ピーターが城で得た情報は、がエースから聞いていたものと同じだった。ヴォイドとの戦いは終わり、過去のセブンス領もなんとか無事であるとのこと。

「常盤には連絡しておいたから。この後、送って行ってあげるよ」
 は口の中でとろけるクリームをゆっくり味わっていたくて、こくこくと頷いてだけ見せる。それを何とも言えない顔で眺めながら、ピーターは「モンブランも美味しいよ」と言った。は流石に食べ過ぎな気がして、遠慮のジェスチャーをする。半分こしようなどと言える関係性ではないのだ。

「ご馳走様でした! 美味しかったなあ」
 ケーキを食べ終え、二人はカフェを出る。馬車の停められている裏門に向かい、食後の散歩のペースで歩いていた。ふと、は自分の胸元で揺れるそれを思い出して、手早く首から外す。

「この時計、返すね」
「別に、持っていたかったら持っていてもいいけど」
「いや、無理。時間くんと一緒に居るのは、もう無理」
 はきっぱりそう言い放ち、ピーターの手にそれを押し付ける。時計を手放してすっきりした顔をする恐れ知らずなを、ピーターは少し小気味よく感じた。……時間くんはこの会話を聞いていないらしい。聞いていたら、流石に彼女に何か言っていただろう。ピーターは時計のビーズを指に引っ掛けてくるっと回す。二三回転した後、ネックレス型の時計は何処かに消えていた。

 はそれが夜空に溶けたとでもいうように、天を仰ぐ。満天の星が今にも振りだしそうだった。それはこの世界に来てから見た夜空の中で、一番美しい。今夜は空気が澄んでいるからだろうか? カラっとした空気は冷たく、少し肌寒かった。……結構寒かった。(時計塔で水に濡れたりしたし、風邪でもひいたかな?)
 前の方に馬車が見え、は早足になる。車内なら少しは暖かいだろうと思ったのだ。

 ピーターは前で揺れるつむじを眺めながら、疲れたような、それでいてどこか気持ちが軽いような、妙な感覚を抱いていた。ただ……彼女に関わった他の者達と同様に、彼女から影響を受けているというのは素直に認めたくない。気に食わない。

 足を止め、彼女が見ていた空を仰ぐと、空に浮かぶ月はまだ満ちる気配がなかった。きっと彼女の物語が進むのを待っているのだろう。彼女は……は、どのような結末に至るのか。
 
「ピーター、何してるの?」
「別に」
 いつの間にか、随分自然に名前を呼ばれているな、と思った。



 ―― 第二章『公爵夫人の仕掛け時計』完 ―― inserted by FC2 system