『ことばかり』
うれしい。かなしい。
心とは文字である。
あったかい。つめたい。
感覚とは文字である。
猫。海。星。パンケーキ。
世界とは言葉である。
ひらがなとカタカナと、漢字と数字。
時々アルファベットと記号。
それが私。
それがあなた。
言葉ばかりの、毎日だ。
***
『冬の恋』
まだ踏み荒らされていない雪のように
白く静かに、澄んでいたい。
蒼く深い冬の底で
憐れで美しい、氷になりたい。
そうして春が来て
朝日に溶けて消えてしまいたい。
わたしの、冬の恋。
雪どけの後には
霜焼けした私だけ。
***
まるで雪のような人だったから
冷たさで、火傷した。
***
『冬融け』
綻ぶ。笑う。歌う。踊る。
春を選んで、花は咲いた。
遺伝子に刻まれた喜びが
素粒子レベルで湧きあがる。
はらりと舞うは、桜の花びら。
ほろりと零れる、冬融け水。
頬を伝うそれは、ほんのりしょっぱい。
流行りのさくら味だった。
***
『多忙な屍』
アレもしたい、コレもしたい、ドレがしたい?
忙しさに“私”が散らばる
バラバラ死体。
やりたいことがありすぎて
一番ホントウが見つからない。
何もできない、多忙な屍。
未完結の恋愛小説のように
庭の土に埋めてしまおうよ。
忘れた頃にでも、何かが咲けばいいけれど。
***
『一本迷路』
この迷路が一本道だと気付いた時
私は迷子になった。
彷徨う余地の無い私は
右も左も失って
ゴールの手前で、目を瞑る。
示された道と、奪われた未知。
1つの出口。0の抜け道。
安全で恐ろしい一本迷路に
私は閉じ込められている。
***
今夜、旅に出よう。
遥か彼方行きの列車に乗って
行方をくらませよう。
終点にはきっと
まだ知らない私が待っている。
***
『固有引力』
対象限定、固有引力。
私の引力を
あなたは重量だと言った。
引き合わない力は
一方を潰すただの負荷。
私の思いが重いなら
宇宙にでも逃げてみればいい。
***
『OrderMadeメイド』
営業時間は、既製品。
スマイル100円、ラテ1000円。
回転率が、命です。
そんな彼女も、家に帰ればきっと
スマイル100点、フリードリンク。
無償オムライスに
ケチャップでハートを描いている。
どこかの誰かの、オーダーメイド。
***
『生き急ぐ暇人』
時間が足りない位が、ちょうどいい。
帰りたく無い位が、ちょうどいい。
道に迷う位が、ちょうどいい。
溜息、息継ぎ
欠伸、深呼吸
目眩がする位、目まぐるしく
私はのんびり、生きている。
***
放課後ティータイム。
少しでも長くお喋りしていたくて、
ドーナツの穴ばかり、食べていた。
***
『地上の月』
彼女はまるで、地上の月。
昼には100℃
夜にはマイナス200℃
綺麗の裏に、凸凹クレーター。
文豪の愛の告白のダシにされて
満ちて、欠けて、満ちて。
かぐや姫には、嫌われた。
***
『さんかっけー』
古代エジプト王の墓、幽玄な山々。
魔女の帽子、焦げたフラスコ。
戻る、進む、あっち、こっち。
ヨットで旅立ち、テントで暮らす。
○以下で×以上
昼ドラ顔負け恋愛模様に
警告、止まれ。止まれ。止まれ。
君の作るおにぎりは、丸かった。
***
『狙われたぼた餅』
てっぺんの、モチモチぼた餅。
端っこの、アマアマぼた餅。
狙うは偶然。鴨と葱。
無計画な、棚からぼた餅。
期待してないから、ガッカリはしないけど。
待っていないから、待たされても居ないけど。
早く、早く、早く!
幸せにしてくれても、いいんだよ。
***
「可愛い」は嫌い。
馬鹿にされている気がするから。
だった、筈なのに。
あなたの前ではどんどん馬鹿になる。
可愛くなりたい、私がいる。
***
『残滓』
薄暗い夜明けに
まだ灯る街灯。
醒めやらぬ夢の
名残を残して
ひっそりこっそり、灯ってる。
月が冷えても、まだそのまま。
カラスが鳴いても、まだそのまま。
人に見られて、ようやく消えた。
***
『花びらの栞』
忘れていた昔の本。
黄ばんだページから花びらが舞い落ちて
あの日の物語が芽吹き出す。
桜の木の下。君と二人。
旅に出て、冒険をして
戦って、死んで、推理した。
笑って、泣いて、夢を見て
隣の肩に、恋をした。
あの頃の二人には
最終章のその先なんて、要らなかったのにね。
***
『海に行こうよ』
海に行こうよ。
始発の電車に駆け込んで、荷物を抱えてウトウトしよう。
日向ぼっこしようよ。
真夏のシャワーにこんがり焦げて、明日は皆に笑われよう。
かき氷を食べようよ。
ブルーハワイとメロン色の舌で、アッカンベーをしよう。
追いかけっこしようよ。
貝殻を拾おうよ。
花火をしようよ。
そろそろ、家に帰ろうよ。
棚に貝殻を飾って、水着とサンダルを洗って、お風呂に入ろう。
それから
それから
今度は山に行こうよ。
***
港町の女は、どこにも行かない頑固者。
いくつの船が水平線へ発とうとも
夢を見ない、揺るがない、追いかけない。
どこへも行けない、意気地なし。
***
『恋愛国家』
「一カ月だね」と歴史が出来て
「この間のアレ」と言語が生まれ
「おやすみ」の義務を果たし
「週末デート」の法律に守られる。
あなたとわたしの、独立国家。
重要文化財を棚に並べて
いつまでも二人
鎖国していようね。
***
冗談は許せても、嘘が許せなければ、恋。
冗談が許せなくて、嘘は許せるなら、過去の恋。
***
ひっかき傷みたいな雨に
図工の時間の版画を思い出した。
削られる、削られる。
心の溝にインクを詰めて
鮮やかな虹色の、絵にしてみようか。
***
『青空のような人』
その人は
雲一つない青空のような人だった。
広く、蒼く澄んでいて
寂しくて
掴みどころが無く、曖昧。
清々しい筈なのに
私の心を曇らせる快晴。
青空のようなその人は
そこに居るのに
どこにも居なかった。
***
幸せを与えないで。
不幸を教えないで。
私は何も要らない。
甘えたくない。
怠けたくない。
強く鋭い私が良い。
だから、さようなら。
大切で特別な、不要の人。
***
『本気じゃないけど本音』
頭蓋骨を割って
私を吸い出してよ。
肋骨を砕いて
私をしゃぶってよ。
健康で文化的な幸福なんて
此処ではない何処かの
誰だか分からない私たちに
任せきりにしてしまってさ。
とても退屈で窮屈で鬱屈な、明日なんだから。
***
23時の星座占いは、一日の答え合わせ。
ビリは嫌だけれど
一位は、もっと嫌。
最低でも最高でもない86,400秒に
今日も横切られただけの、私でした。
***
『quiet scream』
寂々たる、悲鳴。
静けさに押し寄せられる感情。
凪いだ空を月が泳ぐような
木陰で触れ合う葉と葉のような
耳に届かない、小さなオト。
耳をふさいでも、付きまとうコエ。
いつも、いつも
いつも叫んでいる。
***
『かわいい正義』
ゆるふわ羊に連れられて
午前3時のティーパーティ
チューリップのお嬢さん、蝶々のお姫さん
カラスにコオロギお断り
暗い色は、みーんな悪者
長い睫毛が羽ばたいて
大きな竜巻、吹き飛ばされた。
そんなこんなの、なんのその
夢から覚めたら、蟻色スーツのキリギリス
オオカミさんを保護してる
こんな世界はおかしいじゃない。
***
飴だけで生きていけるよ。
夢だけに生きていたいよ。
***
『しない夏』
私が何もしなくても、夏は来る。
砂浜で火傷して
ひまわり畑で転んで
かき氷に頭を押さえなくても
私が何もしなくても、夏は終わる。
夏を待っていた可愛いあの子は
吹き荒ぶエアコンで、凍死した。