『有機生命体N.N』

中川 なみ江
西島 二の助
沼田 ぬえ
根岸 ねね子
野口 のり介 

ネットで知り合って一週間の、
イニシャルN.Nさん。
名前を付けると、一気に有機性が増した。

でも知っているの。
彼、彼女の正体は、

No Name.



***



『小規模タイフーン』

都会の喧騒に嫌気がさしたと言い、
田舎道を改造バイクで騒ぎ立てる!

掃き溜めを生き抜いてきたような顔をしながら、
鉄筋コンクリートのマンションしか知らない!

穿って、尖って、抉れた人間!
並以下の愚鈍さを
並外れた天性だと思い込んでいる天災!

地域レベルで吹き荒れて

たばこ税で、社会貢献!!


***



睨めっこは苦手なんだ。 笑わせるのも、笑うのも 上手くいった試しがないから。


***



『ふつうのひび』

あなたからの連絡が、途絶えた。

あなた専用の着メロ。内緒の登録名。
私の携帯電話が
あなたも知らないあなたを忘れていく。

すっかり不通になると、
あなたに出会う前の

普通の日々。



***



至極真面目な顔で、好きを吐く人。
隙を衝かれて、酷い目に遭えばいいのに。



***



『残夜』

薄暗い、薄明るい、朝の森。

湿っぽい夜の残り香や
ひんやり冷たい空気が
木の影や石の下に、潜んでいる。

ああ

昨晩、あんな夢を見たせいで

正夢にしてしまいそう。



***



『コスモス畑は、海』

ザア。ザア。ザア。
季節の風に、波打つ花々。

流される。流される。
溺れる。溺れる。

いくら手を振っても
意地っ張りな笑顔を止められなかったから

SOSに、気付いてもらえなかった。



***



『気の毒な回遊魚』

外出と言う名の家出をして
散歩と言う名の徘徊をする。

追うことも追われることもなく
ただただ、行き場の無さを誤魔化している。

誰か一人でも私を探してくれれば
可哀想な迷子になれるのに。

今の私は、悪目立ちする行方不明。

気の毒な、回遊魚。



***



わたしを見ないくせに
わたしを観るのはやめて。
看て貰った方が良いのは
あなた達の方。



***



『下町に還る』

栄養成分表示のない商店街。
値段も賞味期限も、上の空。

地域に伝わる伝統芸能。
自転車に乗った、獅子舞・天狗の子孫達。

滑り台しかない公園。
なのに、遊園地と名前が付いていた。

ここは、下町。
少し寂しくて、少し暖かい。

ぶらりと立ち寄る、知らないふるさと。



***



『冬のゴジラ』

冬の朝は怪獣だらけ。
黒いウロコで、白い火を噴くゴジラ達。

野生を忘れた怪獣は
機械の箱に収納されて

ガタン ゴトン

街に出る。



***



『洗脳世界のなないろ』

虹色が7色なのは
誰かが私にそう教えたから。

五月病なんて名前を付けるから
五月はやる気が起きないの。

世の中は言ったもの勝ち。
最初の誰かの、洗脳世界。

概ね従ってきたけれど
でもね

女の子は恋するものだなんて

まっぴらごめん。


***



バイバイ、Summer。

使いかけの花火みたいに
押し入れの中でしけって、
忘れられるのね。



***



『アトカタリスト』

跡形もなくなりたかったのだと、
私のアトカタは、錆びた声で語り出す。

夢を嘘にしてしまえず
嘘を本当だと思い込むことも出来なかったから
傷付くだけの不毛な未来を捨てて
消えてしまいたかったのだと。

けれど人間一人の消滅は、かくも難しいらしい。

立つ鳥が跡を濁さないようにはいかず
羽無しが努力した結果、

昨日の影のようにコンクリートにへばりついている
中途半端な過去の痕跡。

それは実態よりも悪目立ちする、私のアトカタ。



***



女の子だったあの頃。

匂い付きのペンでシール帳に友情を誓った。
ハンカチとティッシュの嗜みを持っていた。

カバンの中に、シール帳が無くなったのはいつだろう。
ポケットの無い服ばかり選んで、嗜みを忘れたのはいつだろう。

女の子を象るもの達は
勝手に、いつの間にか、私から卒業していった。

あ、でも
ラメやビーズはまだ大好き。



***



『まよいびと』

方向音痴を言い訳にして、
責任を放棄し、自由に振る舞った。

綺麗好きな地図は算数より簡単で、
いつでもどこでも
ゴールが見えていたから。

だから今日も、
回り道、回り道。

理路整然とした迷路を往く。

私、一生懸命、迷子なんです。



***



晴れ雨兼用の傘みたいに
都合の良い私だったなら、

きっと、ずっと

あなたのカバンの中に居られたのに。



***



『臆病者の秋』

身も心もジリジリに焦がした9月。

ツムジまでこんがりさせて、
私たちがどんな風に過ごしているのか
みんなに知らせて歩いた。

あの時あの場所が、一番輝いていたから。

だからいっそのこと

セミみたいに終えてしまえば良かったかな

と思う。

夏の太陽に気化された私が
冷たい秋雨になって戻ってこないように。



***



日焼けの跡がすっかり無くなる頃、
冷静になって、また会ってみようね。


***



『バスタブ水槽』

魚とわたしの違い。

魚は、目をつぶらない。
魚は、痛みを感じない。

魚は、溺れない。
そんな魚に憧れて
水中で生きる練習をしてみた

結果、出来上がったのが、私。

ふやけた頭の、府抜け野郎。
乾いた関係が、私を殺す。



***



エラ呼吸が出来ないのに、
地上でも上手く息が出来ない。

生きる場所の見つからない私は

両生類に、憧れた。


***



『プロトコル』

世界でたった一つ。
私達は、私達だけのプロトコルを共有していた。

名付けるなら、それは運命。

まるで一つが二つに分かれたみたいに
考え方も感覚も、全てが似ていた二人。

一緒に居て、楽だったけれど

楽しくはなかったね。


***



嫌いになる理由ばかりなのに
嫌いになれないのが

きっと好きだということ。



***



『0.1のわたし』

蒼と碧の風が、私をリセットしていく。
私でなくてもいい私を、洗い流していく。

てっきりゼロになるものかと思っていたけれど、
全くカラッポの人生でも無かったらしい。

本当に大切な0.1だけ、残っていた。

さあ、今からもう一度、私になろう。

例え右も左も分からなくても

誰にも左右されないような
私になろう。



***



生真面目に生きてきたから
美味しい道草の味も知らないの。

食べられる草と
そうでない草の見分けがつかない私は

いつか毒にやられて死ぬのでしょうね。



***



夏は、あなたが遠い季節。

言葉は蝉の声に掻き消されて
姿は陽炎に飲まれる。

早く寒くなれば良い。
あなたがどこにも行きたくなくなるくらい。
どこに居ても早く帰って来たくなるくらい。

そうしたら、二人、
ホッカイロ替わりに恥ずかしいセリフを言い合ったりできるのにね。



***



『水菓子』

瑞々しいとか、透き通っているとか
そういえば聞こえはいいけれど。

ただ水っぽくて味気ない、
オーガニック自慢のオシャレさん。



***



『自転車置き場』

足より速く、足より不自由。

僕らは置き去り。

お行儀よろしく、留守番軍団。



***



『本当吐きアリス』

砂糖は辛くて
地球は平面で
大人はみんな優しくて

チェシャ猫は怒ってる。

シンジツしか騙らない口で
どうか私を不思議の国へ連れて行って下さい。



***



許される努力より
傷付けない努力をして欲しかった。

嘘が苦手な人とは
もう、一緒に居られない。
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