『赤の私』

今日も私は、酷い人だった。

人に冷たくしてしまった。
自分に優しくなれなかった。

適当な言葉と、少しの嘘と、
二酸化炭素しか吐かなかった。

本当の私は、そうじゃないのに。

本当の私は、
戦争のニュースに涙して
パンダの誕生にはしゃいでいるような、

世界平和を願う、博愛主義者なのに。



***



『後方不注意』

戻りたいより、進みたい。
振り返らずに生きていたい。

そうして前ばかり見ていたら
行きたい場所はたくさん出来たけれど、
帰りたいたった一つの場所を
忘れてしまった。

迷子ではないの。
帰巣本能が欠落しているだけ。

でも、地球は丸いから

まあ、大丈夫。



***



私がワガママに見えるのは、
あなたが狭量なだけ。

なんて、減らず口ばかりでごめんね。

ただもっと
たくさん話がしたいだけなの。



***



『理性のケダモノ』

垂らされた蜘蛛の糸。
縋らない理性的な自分に、酔いしれていた。

ところが
世界は思ったよりも慈悲深く

私は

ぐるぐるぐるぐる

繭になる。

シルクで眠るのは
本能を殺した不毛な獣。



***



花占いが
何度やってもいい結果に終わらないから

私は花を摘み続けた。
私は花を散らし続けた。

この星が、枯れるまで。



***



『地中アイドル』

地下アイドルを目指せるほど
外向的でも社交的でもないから

私は、地中アイドル。

誰の目にも触れず
暖かい土の中で、じっと眠って

養分となり、いつか咲く。



***



観られる為でも

枯れる為でもない。

咲く為に、咲くの。



***



あなたが来なかった、土曜日。
あなたが来るかもしれない、日曜日。

待たされるのは嫌いだから、
日時はちっとも、決めなかった。

待ち合わせじゃなく、偶然、会おうよ。



***



『いつもの夏』

夏には、変わらないものが
たくさんある。

かき氷を食べると、頭が痛くなること。
虫刺されに、ペケ印を付けたくなること。
夕立が来ると、わくわくすること。

下駄をはくと、皮がむけること。
変わることは、大変だ。
変わらないことも、難しい。

けれども夏は
きっと来年も、また暑い。



***



「変わらないね」と言われると
バカにされているような気がする。

「変わったね」と言われると
知ったかぶりにイライラする。

何も言わなくていいよ。

あなたの言葉なんかに
私は左右されないから。



***



『世界の果て』

新しい靴は私の足に合わなくて
歩く度にズキズキした。

だから、1歩が100歩にも感じられて
「ああ、世界の果てまであと少しだな」
と思った。

私が世界の果てに辿り着いたら
残してきた“あれら”はどうなるのだろう。

例えばアパート。
静かな部屋で、誰も開けることのない冷蔵庫だけが
ひっそり唸り続けるのだろうか。

あ。

柔軟剤と絆創膏。買って帰らなきゃ。



***



そうしてまた私は、
帰るための言い訳を探している。



***



『半生意気』

許される為だけの
生意気、ワガママ。

そうして私が得るものは
罪悪感と、束の間の安堵だけ。

好きになればなるほど
嫌われる努力に勤しんでいる。

真面目で素直で繊細な
ただのバカ。



***



『PrincessRoom』

大きなドレッサー
猫脚のソファ
天蓋付きベッド
煌びやかなシャンデリア

ママがパートでも

パパがサラリーマンでも
この部屋の私は、お姫様。

毒リンゴを食べて
舞踏会の夢を見るの。



***



辞書にしか載っていないような
誰も使わない言葉が好きだった。

難解であればあるほど
見栄えがよく思えた。

変わっているね。難しい子だね。
そう言われることが、好きだった。

面倒で、理解する価値さえ見出されない

虚飾の私。



***



人と違う自分を演出したくて
かき集めた変りものたちに

なけなしの個性は淘汰された。

きっと、みんな、そう。



***



『水没金魚』

フワフワ ぐるぐる
どこにも行けない、酸欠金魚。

泳ぐのに疲れたら
恋を失くしたあの子のように

泡となり、沈むだけ。



***



『花』

生けて。生けて。

剣山のような私の
鋭い針を隠すように
その花を、私に生けて。

そして飾り立てられた美しい花を
愛で、触れた瞬間

針に刺さったあなたは、100年眠りなさい。



***



『レジ』

あなたの人生の、
清算をいたしましょう。

カード払い不可、現金のみ。

なお、お釣りは出ません。



***



『Love&Peace』

ラブ&ピース。
改め、ラブORピース。

愛と平和は両立しない。

心に剣を。銃を。
華やかな鎧を身に纏い、

さあ、愛のために戦うのだ。



***



『ファッション脳科学』

新しいバッグを持つと、新しい物が入れたくなる。
新しい靴を履くと、新しい道が歩きたくなる。

でも、不思議。

新しい服を着ると、会いたくなるのは、
しばらく会っていないような古い友人だったりするの。



***



「理解し合えない」だなんて、なんたる怠慢!
歩み寄る努力は、知る努力。

不安も心配も、
知識のフラストレーションの錯覚なのです。

ですから

切って、開いて、見て、聴いて。
私とあなたが同じものであることを、確認しましょう。



***



『レンタルキャット』

初めて二人で会う日。
あなたは私に「借りてきた猫みたいだ」と言った。

でも、物珍しさからチヤホヤして
あなたの方が、よっぽど変。

慣れてきたら
少しくらい愛想を振りまいてあげるけど

躾けられるとは思わないことね。



***



借りてきた猫は、ただ大人しい訳じゃないの。

用心深く周囲をうかがって、

“機”を狙っているのよ。



***



『カタツムリ』

聞きたくないから、聴いていた。

聞いていなければ、知らなくていいのだと、
自分勝手な言い訳をしていた。

けれど
そうして殻にこもればこもるほど

渦巻く自分の声が、耳障りだった。



***



あなたも私も、
人並を知って、並みの人になるのね。



***



『ガールズエンド』

いつまで「女の子」で居ていいの?

前髪の長さに一喜一憂したり
ぬいぐるみを抱きしめたり
チープでキラキラしたお化粧をしたり
「あのね」「だって」「だもん」で、お喋りする。

いつまで「女の子」で居ていいの?

きっと、それを疑問に思う頃まで
私は「女の子」だったと、思うの。



***



『カンセイヒン』

未完成の、官製品ガール。

今はもう
ガールでもレディでもプリンセスでもない
ただの私。

ガールにもレディにもプリンセスにもなれる
オリジナル製の、私。



***



『よわい人』

優しい雨、弱い雨。
優しい日差し、弱い日差し。

優しい言葉、弱い言葉。
優しい色、弱い色。

優しさと弱さは似ているけれど

優しい人は、強い人。



***



優しい人が好き。

うそ。

私だけに優しい人が好き。

うそ。

私の好きな人が、私だけに優しいのが好き。

うそ。

優しくされている、私が好きなだけ。
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