『出し損ねた手紙』
昨晩、
古いカバンの底から
出し損ねた手紙を見つけた。
綴られている言葉たちは
昨日遊んだ友達のような顔をしているけれど、
昨日でもない、明日にもなり得ない、遠い過去の遭難者。
出せば良かった。
出さなくて良かった。
出し損ねた手紙。
***
雨で来られないあなたなんて
魚になってしまえばいいのに。
***
『有毒女』
プライドを守るため。
他人の不幸話を鎧にして、
自虐の盾を構える。
強くなったけれど
妙に繊細になってしまった。
最近の、わたし。
***
『臨時休業』
1時間毎の10分休み。
長いチャイムの音。
早く帰りなさいと、怒る先生。
ある日突然無くなってしまったそれらに、
疑問を感じなかったのは何故だろう。
ゆっくり考えてみたくなったから
今日の通勤電車は
終着駅まで。
***
肩が酷く凝るようになったのは、
俯いてばかりいたから。
顔をあげて、もっと世界を見ていこう。
触れ合っていこう。
足元が疎かになって擦りむいたって、
唾でも付けておけば治るわ。
***
随分と長いこと
目的もなく歩いてきてしまった。
帰路はキロメートル。
今の私なら、体力も時間もまだ大丈夫。
よーいドンで、駆け足で戻ろう。
でもその前に
ひとやすみ。ひとやすみ。
***
『いたずら』
すれ違いざま。
知らない背中に、そっと花びらをくっ付けてみた。
花びらは、
どこかのベンチの読書家の、本のしおりになるでしょうか。
静かなカフェのソファで、そっと眠りにつくでしょうか。
それとも、もっともっと遠くの、知らない場所へ行くでしょうか。
花びらは、
風に飛ばされていった。
***
新しい街。
新しい服。
新しい出会い。
新しいことを大切にしたいから
暫く会うのはよそうよ。
五月病になったら、連絡するね。
***
『花時雨』
春の雨は、嫉妬深い。
愛でられる花を傘で隠して
あっと言う間に散らしてしまう。
降らなければ、恨まれることは無かった。
けれど
忘れられるよりは、嫌われた方がマシだから。
冷たく悲しい、花時雨。
***
昨晩、幸福な夢を見た。
夢から醒めた時
その幸せがただの夢だったと知り、
幸福な夢は、不幸な悪夢になった。
***
『答え合わせ』
恋よりも純粋で
愛よりもわがままな
この感情を、なんと呼ぼう。
わたし達は
結論を先延ばしにするように
言葉を塞ぎ合った。
***
世の中に「許されない恋」なんて、きっと無数にある。
たまたまその一つが、ここにあるだけ。
特別ではないけれど、そう思われたくもないけれど、
君がそこに魅力を感じているなら、特別で居てもいいよ。
ねえ、ずっとこうして居たいから
明日、世界が終わればいいね。
***
『異邦人』
わたしはいつでも、
見ず知らずの異邦人。
ここではない、どこでもない場所で
誰でもない、わたしでありたい。
***
偉そうな境界線。
内側にも外側にも留まりたくなくて、
アウトローを気取って跨いでいた。
けれどそれは
どこよりも狭い“線の上”に
囚われて生きていくということだった。
***
はまらない型に
自分をくり抜かれてしまうくらいなら
いっそのこと、壊してしまおうか。
***
『3/4の不安』
秋は紅葉、冬は雪、春は花。
視界を覆う季節の吹雪が
あなたをさらっていってしまいそうで。
ああ、早く夏になればいいのに。
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『廻る夢色』
赤 オレンジ 黄色
色とりどりの観覧車。
そのどれも選べなくて
いつも下から見上げているだけだった。
黄緑 緑 水色
決着のつかない追いかけっこ。
いつまでも、いつまでも。
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「夢が見られなくなるくらいなら、ずっと子供のままでいい」
そう言ったわたしに、
「夢を叶えることが出来る、大人になればいいよ」
とあなたは言った。
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女の子と夢の国は
添加物だらけの加工品。
保証対象外につき
取り扱いにはご注意を。
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『休息』
目まぐるしい日常から、いち抜ける。
腕時計を外して、携帯の電源を切って、
何に追われることなく過ごしていると
あんなにも息を切らせていたのが、
とてもおかしく思えた。
これからはもっと、のんびり生きよう。
急ぎの用事こそ、重要でないことばかりなのだから。
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多忙にかまけて自分を蔑ろにすること。
それは疲れるけれど、簡単な生き方。
惰性に甘えるのは、もうやめよう。
人生をサボるのは、もうやめよう。
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『春一番』
春一番より早く。
野の花よりずっと早咲きな、女性たち。
日本の春は、彼女たちから始まる。
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風に散らない。
冬に枯れない。
虫に食われない。
花盛りを過ぎることを知らない、通年の花。
造花の努力を、あなたは知らない。
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私が道に迷えるのは、
どこに行っても
自分を見失わない自信があるから。
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『色奏』
晴れた日の、洗濯物を透かした色が好き。
草花に降りる、朝露の色が好き。
まどろんだ、瞼の裏側の色が好き。
赤でもなく青でもない、
日常を奏でるあの彩りが
私の好きな色です。
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いつの時代も生き残るのは、
私なりのスタイル。
真似することも
真似されることも恐れない
大胆不敵な野生のプライド。
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『桃色のワタ』
切り開いたら、桃色のワタ。
分厚いコートで包み隠した、可愛い色。
気付いてほしいけど
見せたくない。
繊細な、女の子の内臓。
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『神秘の殻』
怠惰から口を閉ざしていると
宇宙のような神秘性に守られて
人嫌いを許容される。
止まらないビッグバンで
私の殻が途方もなく肥大化する前に
返事をしたくなるような
面白い話を聞かせて。
***
『女の子大戦』
女の子の女の子による女の子のための
排他的で独善的な戦争。
“愛”のために
“平和”のために
“可愛い”のために
“ティータイム”のために
儚く、華華しく、夢を散らせて
女になり、終戦。
***
笑顔に涙。
なんだって武器にしてきた。
プライドよりも
あの人が欲しい。