『春の便り』
まだ冷たい風が運ぶ、花の香り。
どんな詩よりも雄弁な、小鳥達の喜びの歌。
今年も春が来る。
開いた蕾の中から。
草葉の間から。
春が、来る。
***
『近距離疎遠』
顔を見飽きて、話が尽きる距離。
顔も、声も、匂いも
いつでも簡単に思い出せるようになると、
想い浮かべることもなくなった。
手紙を待ち遠しく思うくらいが
二人には最適な距離だったのでしょう。
***
愛想があるように見えて
一定の距離を詰めると、逃げていく。
野良猫のような人でした。
***
分かってくれなくていいから
知らないふりはしないで。
***
重力は質量に比例する。
ふわふわ浮足立って
軽い女に見られたくないから、
押しつぶされそうに
星にもたれかかっていた。
***
『二時間の華』
恋愛ドラマのヒロインになりたかったのに
私が行き着いたのは
サスペンスのシリアルキラー。
ミステリーにもホラーにもなりきれない
二時間が寿命のちゃちな悪役。
剣より強いペンで、踊らされているだけ。
***
清く正しく交信しましょう。
あなたの言葉が分からないのは
私が宇宙人だから。
私の心が分からないのは
あなたが私を見ていないだけ。
***
『素晴らしき日々』
今日を乗り切って
明日を乗りこなしていきたい。
過去と共存して
未来と戦っていきたい。
その先に待つ、幸福。
それを追い求める日々こそ
素晴らしき日々。
***
聞こえの良い言葉を並べ立てていたら
見栄えの悪い、人生になった。
***
『カウントダウン』
ポケットの中で
こっそり回数券の残りを数えた。
少しでも長く遊んでいたくて
一番消費枚数の少ないアトラクションばかり
何度も何度も選ぶ私に、
「本当に好きなんだね」と
あなたは笑った。
その言葉に、ドキリとした。
***
『秘密のオノマトペ』
キラキラ
ふわふわ
サラサラ
そわそわ
ドキドキ
ひゅーっ
ストン。
これは私の、恋の音。
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『女の子のしっぽ』
女の子には尻尾がある。
強くなれるポニーテール。
賢くなれる三つ編みお下げ。
いくつか種類はあるけれど
バランスを取りやすいのは
耳の上から、二つの尻尾。
これのおかげで
私は転ばずに歩いていけるの。
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中学に入って
「お前そんなに小さかったっけ」
ってアイツに馬鹿にされた時
無性に嬉しかった。
***
『空の心』
空の心は、空っぽの心。
泣かないし、笑わない。
雨に意味を見出すのは
いつだって
自己表現が苦手な人間だ。
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あなたの肩が濡れるのが嫌だから
私は傘より、雨合羽派。
***
雨の日。
海と空が、繋がる日。
知らない二人の喜びの波に
私は一人
遭難してしまいそう。
***
『全息前進』
今日吹く風は
あの日に漏らした一つの溜息。
地球を一周して
世界中の色々なものを纏って
今、私の背中を押す
前進力になる。
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「あっ」と言う結末までは
あっと言う間。
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『12月の不愛想』
氷点下10度以下。
ポーカーフェイスの瞳に輝く
ダイヤモンドダスト。
冬の都会でよく見かける
忙しさにかまけた、不愛想な女
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年の瀬。
街全体の忙しない雰囲気につられて
私も自然と、早足になる。
大掃除も年賀状の準備も終わったのに
何に追われて
何を追いかけているのだろう。
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『道無き未知往き』
邪の道は、獣道。
道無き道は未知へと続く。
奇をてらった自称革新者は
大きな蛇に、呑みこまれた。
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思想を愛する哲学者。
イカした論理が導き出すのは
如何せん、イカれた結論。
***
『石の国の魔女』
心優しき使い魔も
みんな眠って、石になった。
醒めない夢の国は
連日連夜のダンスパーティー。
恨めしい。恨めしい。
仲間外れの私は
茨の森の眠り姫ではなく
呪いの魔女。
***
『孤独の棘』
自分が傷付くことは怖くない。
誰かが傷付くことが怖かった。
だからこんな棘の中
独りぼっちで居るというのに
無理にでも立ち入ろうとする
その無謀な傷にだけ、
私の孤独は癒される。
***
使い古された言葉は
唾液に塗れて錆び付いているから
潔癖症の私は語らない。
使われなくなったこの口が、
いつか腐り落ちるとしても。
***
『死屍累々』
いつだって少数決。
淘汰されないように、尖って生きてきた。
死んでいるような人生は嫌だと言って、
生きていると思い込んだ、
大多数の屍の一つ。
***
人に愛されたことのない猫は
顔を見ればすぐに分かる。
なのに、人間はそう簡単じゃないから
難しい。
***
『可能世界』
可能性世界の話をしよう、と言って
口を開いた彼女が語るのは
途方もない夢物語。
***
あなたは何よりも透き通っていて
この手をすり抜けていく。
この目に見えなくなる。
***
美しいものに触れたいと願えば願う程、
この手は汚れていった。