『人口ゆるふわガール』
すっからかんの頭なら
きっと軽々空も飛べるから
私は、考えることを放棄した。
ふわり ふわり。
風船みたいに浮かぶ私は、
空っぽガール。
中には、ヘリウムガスが詰まっているだけ。
***
『眼鏡』
両目ともに、裸眼で視力1.5。
見えすぎるから、
とびきり度の合わない眼鏡をしよう。
***
パタパタと、はばたいていく。
無責任に生きていた私の、
羽のように軽い言葉たち。
物言わぬ私は
きっといつもよりも、少し素直。
***
『完璧な世界』
歪んだフェンスの向こうに
いつも通りの日常がある。
そこではあの子もあの人も
皆がみんな楽しそうで
とても幸福そうだ。
常より素晴らしい、いつも通り。
理路整然たる完璧な世界。
その理由を、私は知っている。
「だって、私がここにいるんだもの」
蛇足女が、そう言った。
***
あなたの前では
いつもかわい子ぶっている私。
優しい言葉も
まじめな顔も
本当の私じゃないの。
でもね
本当じゃなくても、嘘でもないの。
***
『一瞬一生』
好奇心は猫をも殺すというけれど。
無関心で味気なく寿命を全うするより、
よっぽど良い生き方だと思わない?
後先なんて考えていられないわ。
今が何より大切。
この一瞬が、私の一生。
***
『着物美人』
きつ過ぎるくらいに帯を締めて
安定しない花飾りを付けて
歩きにくい下駄をはいて
私の中の、何かを抑え込んだ。
お淑やかの、檻。
***
『青』
天高く澄み渡る青。
静かに揺れる母なる青。
涼しげで優しい色、青。
私たちの星は
こんなにも青に溢れているのに
青空も、海も、幸せの青い鳥も
みんなみんな、手に入らないものばかりなの。
ここになくて、どこにでもある色。
わたしの、好きな色。
***
いかにもゴミって感じのゴミ。
なんだかすごく、ウソくさい。
ゴミのレプリカって感じ。
本当のゴミって、もっと汚らしいでしょう?
***
どこにでも行けるようで、
どこにもいけない無個性達。
いっそのこと盗まれて、乗り捨てられて
誰にも見つけられない町の片隅で
静かに孤独に眠りたい。
***
『色鬼』
酔ったふりをして
裏路地に逃げ込んだ。
表通りには、まともぶった鬼、鬼、鬼。
いつからかこの世界は
モラルを笠に着た排他的平和主義の、巣窟。
多数決の民主主義は
まるで「色鬼」のよう。
私が少数派の生き残りであるならば
むしろ私こそ
異端な、鬼。
***
『自分探しの旅』
暖かくなったから
お気に入りのコートを着て旅に出よう。
旅の目的は「自分探し」
尋ね人の張り紙を作ろうとして
知りうる限りの特徴を書き連ねてみたら
それはまるで、知らない人のようだった。
***
月曜日に憂鬱になったり、
金曜日に夜更かししたり、
日曜日に切なくなったり、
そんな、当たり前の私でいいのにね。
***
“きっとこれが私だ”と思うものを見つけて、
それまでの私を見失った。
***
『三月の海』
三月の海。
冷たい潮風が目に染みる。
泡になって消えてしまいたいけれど
そんなに、
繊細で美しい恋ではありませんでした。
なので、髪を、切ろうと思います。
***
100年の恋から醒めて、
101年目の愛を識る。
***
世界があまりに綺麗だから、
レジンで固めて首から下げてもいいかしら?
***
退廃へと、至る道。
0への回帰。
死んだ後の、生まれる前。
***
『終幕』
あなたに罪はない。
悪いのは、あなたに手を下させた、私。
強張った表情、悲しみと憤りに満ちた瞳。
強く噛みすぎて、朱がにじむ唇。
震える腕は、私を突き落とした。
あなたもわたしも
平凡すぎてつまらないから
最後くらいは、劇的に。
***
私を殺す夢を見たですって?
そんな呑気なことを言っていないで、
早く目を覚ました方がいいわよ。
***
『夢見る商店街』
午前11時。まだ夢から醒めない。
閑散とした商店街は、魔法の国。
薄暗い路地裏に、
まじないと呪いが入り混じる。
***
潔さに惚れるのは、よしてちょうだい。
冷たい女は卒業したいのよ、私。
***
11時30分。お昼ちょっと前。
今から準備をすれば、遠くへだって出かけられるし、
ベッドで横になれば、あっという間に夕方。
運命の分かれ道。
今日はどんな一日になるのかしら?
***
『ヒロイン・センセーション』
お淑やかで、可愛くて
賢くて、優しくて
時折わがまま。ちょっと天然。
得意なことはお菓子作り。
大好きなのは、パパとママ。
苦手なのはこわ〜いピアノの先生。
虫とお化けが大っ嫌い!
なんて
一昔前の典型的なヒロイン。
今日の私は、そんな気分。
カマトトぶるのはお手の物!
***
『着ない言葉』
大好きな人に嫌われるより
好きじゃない人に好かれる方が、
100倍苦痛だわ。
世界に私とあなただけになっても
あなただけは、好きにならない。
***
『赤い夜』
情熱の赤。
燃え盛る炎の赤。
私の中に、流れる赤。
赤、赤、赤。
あなたと私を、繋ぐ、赤。
今夜は
こんなにも暖かい色で満ちているのに
私を見るあなたは震えて
青ざめている。
全て真っ赤な嘘だって言ってあげられれば
良かったのにね。
***
ルージュの伝言は、あの子のダイイングメッセージ。
***
長い髪。キャラクターもののひざ掛け。
あなたの車に、残す痕跡。
あなたがちゃんとしつけないから、
私のマーキング癖は治らないのよ。
***
いない いない ばあ
あなたが いない
わたしも いらない
***
『ブランコ』
靴を飛ばさなくなった。
立ち漕ぎしなくなった。
鎖を絡めなくなった。
いつの間にかとっても、お上品な私ですの。