『新宿』
新宿の夜。
昼間、あんなにも蔓延っていた
七三分けの営業マンや
白すぎるストッキングのOLは消え、
赤い髪の鎖ベルトの男や
キャミソールの女が、
どこからともなく湧いて出る。
新宿はリバーシブルだ。
ただし早朝は、ブレンド・新宿。
***
名無しの夜。
集団に帰属することで、
秘匿性は守られた。
***
怖れ入りません。かしこまりません。
申し訳ございます。
遠慮なんてしてやるもんか。
一度きりの人生、
大胆不敵に生きてやる。
***
明日に希望がなくても良いよ。
今日のことは明日笑えなくても、
10年後には苦笑できるかもしれないし、
20年後には忘れて居るかもしれない。
未来に期待。
それでいいよ。
***
変わるのが怖いだなんて、嘘。
本当は、変われない自分に気付きたくないだけ。
***
『希望』
1969年、 人々の夢を乗せて、アポロは月面に着陸した。
人類初の、月への到達である。
そこに降り立った彼らは、落胆したのではないだろうか。
美しく輝いていたお月様が、
でこぼこなクレーターだらけの
巨大な石ころでしかなかったことに。
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『街灯』
疲れた瞼に突き刺さる、人工ライト。
都会の夜は、眩しくて、目まぐるしい。
ああ、ダメダメ。
マッチの灯りじゃなけりゃ、
夢も見れやしない。
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敷金礼金なし。
駅から徒歩30分の、四畳半。
隠れるように、住んでいる。
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『絶対少女領域』
幻想と現実の狭間。
妄想と理想と空想のミックス・オレ。
完成された未完成。
半熟卵の私たち。
クスクス笑って、キャッと驚く。
傷付きやすい、傷付きたがり。
それが、女の子という生き物です。
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木に登って降りられなくなった子猫みたいに、なりたいの。
心配そうな顔で、額に汗して助けに来て欲しい。
だのに、
猿みたいな自分が、恨めしい。
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『街虫』
都会の女は夜行性。
蝶より美し、夜光の蛾。
ねえ、知ってる?
蝶と蛾に、明確な違いはないんですって。
だとすれば それを決定づけるのは、
観測者の“感情”なのだと思うのよ。
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『Fashionable』
今季限定カラーの口紅には
軽薄な言葉がよく似合う。
携帯電話。テレビ。流行の歌。
最新式のものは総じて、
軽くて薄っぺらい。
軽量化軽量化軽量化。
人類は近年中に、浮遊の術を手に入れるだろう。
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『MY CLOSET for 秋』
秋はおしゃれが楽しい季節。
葉っぱが色付くより一足先に、
女の子は衣替えするの。
ふわふわのニット。
おしゃまな帽子。
お洋服の魔法にかけられて、
わたしの心も、衣替え。
夏とはちょっぴり違う感じ、するでしょう?
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『優しい人』
あなたが優しいから
私も、もっともっと
優しくなれる。
あなたは柔和で温厚な、常春の人。
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『タイムトラベラー』
私は過去からやってきました。
1分、1秒、ついさっき前の世界から、
今という未来へやってきたのです。
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卵が先か。鶏が先か。
ひよこが良いな。
可愛いから。
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『非行少女』
悪いって、カッコイイ。
制服の上に革のジャケットなんて着ちゃって、突っ張って。
未成年の飲酒・喫煙
無免許運転でスピード違反
援助交際、校則違反に、暴力行為!
そんな、皆やってることはカッコ悪いから、
私は犯罪防止ポスターで金賞を受賞して、
皆勤賞を目指すわ。
皆の想像を裏切る、最高に悪いコでしょ?
***
『曼珠沙華』
夏の終わりに、妖しい焔。
「君によく似ているね」と、あなたは言った。
過去の悲しい思い出に毎晩枕を濡らしたり
昔の恋人が好きだと言った口紅を、今も使い続けていたり
そんな、憂いを帯びた顔の似合う儚げな女が
あなたの中の勝手な「私」。
あなたは悲しい女が好きなのよね。
守ってあげたくなるのよね。
ちゃんちゃらおかしくて、いい加減うんざりもしてきたけれど
私は100均で買った安っぽい口紅で、
妖艶に見えるように微笑んだ。
私が悲しい女になるかは、全てあなた次第。
***
『Flat』
世界は思ったより狭い。
けれどそれ以上に、私の脚は脆弱だ。
ヒールを脱いで、歩きやすい靴にして、
それでも疲れたら、
いっそのこと歩くことを止めてみよう。
ほら。
私が動かなくなって、
世界は勝手に廻るのだから。
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『有邪気』
大切なものが増えていくたび、無邪気ではいられなくなった。
だとすれば、
あの人も、あの子も、みんなみんな、
邪、邪、邪。
お願いだから、
「前は無邪気で可愛かったね」なんて言わないで。
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夢の中から「おやすみなさい」
目が覚めたら、きっと本当の私に会えると思うの。
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『知ったかぶり虫』
綺麗な言葉、難しい言葉、あまり使われない言葉は
それなりに、それらしく聞こえる。
それらがあまりに立派だったから、
私はできるだけ沢山、自分にくっつけた。
ミノムシみたいに自分を覆って、
ゴテゴテになった私は、そして、
何も聞こえなくなった。
知ったかぶりの
本の虫。
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『宙色泡玉』
キラキラ七色に輝いて
クルクル世界が回ってる。
手も髪もベタベタにして、
シャボンの味に顔をしかめて。
それがおかしくて笑ってた
無邪気だった子供の頃。
見て、見て!
あの頃ぶりだけれど、思ったより上手く吹けたの!
割ったら怒るからね。
***
『冷夏』
その一言で、夏が凍りつく。
あんなに騒がしかった蝉の声さえ、ピタリと止んだ。
神秘的といえば、聞こえはいいけれど。
身勝手で分かり難い、嫌な女。
***
天気は曇り。私の心は水玉模様。
***
最期に100片後悔するくらい、
手放したくない生涯であれ。
***
『千里眼』
見える見える。全部見える。
明日のこと。明後日のこと。もっと先のこと。
先の事ばかり気になって、
今が全然見えなくなった。
盲目的な、千里眼。
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『納涼』
涼しげなガラスの音色に、夏が遠のく。
やかんで湧かした麦茶。
ちょっとしけった昨年の残りの花火。
死んだふりの蝉に驚いて、
かき氷に頭が痛くなって。
何百人が何百回も繰り返してきたような
どこにでもある夏。
わたしだけの、特別な夏。
***
あなたの家の、10年も生きているという夏祭りの金魚に嫉妬する。
***
『My room』
広くて狭い、私の世界。
なんでもあって、なんにもない。
ここはいつでも静寂と平穏に満ちていて、私は外を知る由もない。
例えば世界中が大洪水に見舞われて、
この部屋だけがプカプカ浮かぶ方舟だったり、
私が最後の人類だったとしても。
そもそも私以外の全ては、夢だったのではないだろうか。
ああ、きっとそうに違いない。
私はずっと思い違いをしていたのだ。
この部屋の外なんて、きっと最初からどこにも存在しないのだろう。