『A.M.サボタージュ』
家を出る時間が、少しだけ遅くなったから。
いつもの通学路に、飽きてしまったから。
体育のマラソンに、あまり気のりがしないから。
あなたに、会いたくないから、サボタージュ。
気が向いたら午後から行くわ。
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『理性の鎖』
私を繋ぎ止めているもの。
私を私たらしめる鎖。
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『耳障りな静寂』
冬は静かで、とてもうるさい。
耳障りな静寂が支配する世界に、私は独りきり。
あなたの落ち葉を踏む軽快な音が、
張りつめた空気を破裂させてくれるのを待っているの。
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『クリスマスマーケット』
キラキラのツリーに、イルミネーション。
天使のベルに、ホットチョコレート。
クリスマスの魔法にかかった町は、おもちゃ箱の中みたい。
ねえ、子供の頃のイブの夜、覚えてる?
あんなにもワクワクする日は、他になかったわ。
家には煙突なんて無かったけれど、プレゼントは必ず届いたのよ。
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桃源郷にお連れしましょう。
帰れなくても、良いのなら。
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『冬の蝶』
クリスマスオーナメントがあまりにも煌びやかだから、
花と間違えてしまったの。
そして私は、寒さに死ぬ。
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『イチョウの海』
黄色、黄色、黄色。
世界を埋め尽くす黄色に、溺れてしまいそう。
そうしたら私は、黄色い海を泳ぐ深海魚。
暗く冷たく穏やかな場所で、ひっそりと生きていくの。
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『凍結少女(ワレモノ注意)』
現在凍結中です。
とてもデリケートな状態のため、
お取扱いにはご注意ください。
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『amabile』
小さい秋。可愛い秋。
ウサギさん、リスさん、タヌキさん。
森のお友達の楽しい楽しいティーパーティー。
招待状が届かなくなったのは、いつからかしら?
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『警告』
もし、路地裏から不審な音や不穏な気配がしたとしても、
近付かない方が身の為よ。
これは、あなたの為の警告。
そして、わたしの為の警告。
私の為に、死ぬまで平和ボケしていなさい。
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『寒がり』
寒いのは大嫌い。
だけど、ニットの帽子もファー付きのコートもお気に入りだし、
キラキラした街はずるいくらい、綺麗。
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『Classical.』
形あるものは優しくないものばかり。
わたしには浪漫だけ、在ればよいのです。
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『Antique.』
時間に忘れられた、不変のもの。
例えば、古い陶器の置物とか。
そういうものになって、棚に並べられでもすれば、
心がざわつくことなんて無くなるのに。
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『青春』
文化祭のクラスTシャツとか、
紙パックのジュース。
体育館の天井に挟まったボールに、
憧れの先輩。
それらは永遠に、私の中で輝き続ける。
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『曇天』
今にも落ちてきそうな重たい空。
天気予報は見てきたんだけど、傘は持ってきたくない気分だったの。
ちょっとだけ、後悔してるわ。
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『書きかけの物語』
ふわふわモールの草木の向こう
フェルトのうさぎが急いでる。
これはきっと、あの物語。
自由帳に香り付きのペンで書きかけた、誰も知らない物語。
さあ、結末に会いに行こう。
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『Happy Halloween』
やってきました、年に一度のハロウィン・ナイト☆
待ちすぎて首が長くなってしまったあなた、
丁度良い長さに切り揃えてあげましょう。
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『貌』
週末に生まれた、猟奇的な緋色のオーガ。
あなたは私を化け物と詰って、
鉄格子の中に閉じ込めて、
またお利口さんのフリを始めるのね。
今週もお仕事、頑張って。
また金曜の夜に、遭いましょう。
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『魔王少女』
妖精も魔法使いも勇者様も、もうどこにも居はしない。
殺してしまったのは、わたし。
幻想の国を滅ぼす魔王は、わたしだったのだ。
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『見知らぬ街』
見知らぬ街には、知った顔は一つもなくて。
彼らも私のことなど、何一つ知りはしない。
まるで海を漂う手紙入りの小瓶みたいに、
誰もが秘密を閉じ込めている。
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『魔が差す。』
静かな午後には、ちょっとした悪意が顔をのぞかせる。
とりかえしの付く嘘や罠を、できるだけたくさん仕掛けてみたい。
すぐに治る傷なら付けてもいいかな、なんて。
棘のない花だと油断していると、毒があるかもしれないわ。
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『ボーダーライン』
言葉と心。他人と自分。現と虚構。
境界線を決して超えないように、
整合性を確認しながら、生きていく。
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『夏の終わり』
ひぐらしの声と、祭囃子が遠ざかる。
着慣れない浴衣姿で、
見慣れない場所に神隠し。
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「まだ大丈夫」って自分に言い聞かせてるけど、
本当はずっと、ヒーローを待っている。
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『8月、ひまわり畑にて。』
ねえ、昔みたいに鬼ごっこしようよ。
手加減するから、見失わないでね。
かくれんぼは寂しいから、嫌い。
そのあと、うちに来てスイカを食べよう。
お昼寝から起きたら、夏休みの宿題を写させてね。
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『終末』
古びた写真みたいな部屋で、心が錆びていく。
色も音もない、静かな朝。
部屋の外の全てが、嘘だったみたいに思うの。
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『風光る』
眩しい光に目を閉じて
風のささめきに耳を澄ませれば
聞こえてくるのはあの日のフェアリーテイル。
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『オフィス・レディ』
充実のサービスであなたの暮らしをサポートします。
ただし、平日定時まで。
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『臆病者と雨の公園』
雨の日の公園は、服が汚れるから、遊べないの。
雨が止んでも、この靴じゃ転んじゃうから、遊べないの。
もう遊べないの。
君とは、遊べない。
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猫 「“気ままだから”なんて、都合の良い解釈で私を無視するのはやめてったら」