「これはわたしです」
「……何の話かしら」
「わたしは冷たい水面に、プカリと浮いています。
 遥か天上の月ばかり見上げているあの人が、
 いつかその足を滑らせて水底に堕ちていった時、
 あの人の新しい月になるのはわたしです」
「よく分からないわ」
「ただの戯言です」
「そう」
「知っていますか?天上の月は、我々人間には綺麗な面しか向けていない」
「何が言いたいのかしら」
「あなたに騙されている、あの人が可哀想」
「なんだ。ただの負け惜しみだったのね」
「はい」
「くれぐれも、あの人を暗い海に引きずりこまないでよ」



海月は、にこりと笑った。


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