000000「わたしと君」



「生まれ変わってもずっと一緒よ!」
「ああ、また僕たちは恋人同士になるんだ!そして幸せになろう!」
「ええ!きっとよ!きっと!」
街の巨大スクリーンに映し出される映画の予告に、道行く人々は立ち止まり上を見上げている。その所為で通行が滞っているのだからいかがなものかと、少女は白い眼で人々と同じようにスクリーンの中の男女を見ていた。男の方は、最近評判のタレント落目旬だ。落目で旬って……どっちかにしろと言いたくなる。

「良いなあー!あたしもあんな恋愛してみたい!旬様に愛されたい!“生まれ変わってもずっと一緒よ!”“ああ、僕たちはまた恋人同士になるんだ!”……なんちゃって!」
一人で盛り上がる友人に少女は「ツッコミ待ちか?」と考え、一応腹にチョップを打ち込んでおいた。アウチ!と対して痛がってもいない声が上がる。

「何すんのー…。あんたは、ああいうの憧れたりしない訳?」
「ああいうの?」
「ほら、今生を超えた恋愛……!みたいな」
自分で口にしていて恥ずかしいのか、友人ははにかみながら視線を逸らした。少女はそんな友人にふっと笑う。

「わたしは今だけで充分だよ。前世から、なんてそんな重たいのは御免だな。だってそれってロマンチックかもしれないけど、結局は今の幸せの妨げにしかならないような気がするんだよね。君だって、もし恋人が出来たときに、恋人に前世で永遠を誓った恋人が現れたりしたら嫌でしょ?」
素直な友人はその言葉を真剣に受け止めて想像したらしく、妙に落ち込んだ様子をみせた。

「それに来世でも、なんて、前世で幸せになれなかった人の言うことじゃない?そんな過去の辛い恋愛を引き摺りたくないよ」
「うむ……あんたの言葉はいつも説得力があるなあ。なんか実体験みたい」
「な訳ないでしょ」
二回目のチョップは、躱された。友人が得意げな顔をして笑っている。ピポン、ピポン、と愉快な音色が感動映画の邪魔をするように響き、前の信号が青に変わって、人が少しずつ動き始めた。それでも人々はまだスクリーンに視線を向けていて、友人もいつの間にかまたスクリーンに釘付けになっている。画面の中の落目旬が泣いている。

何がそんなに面白いのか……。と、呆れたように肩をすくめる少女だったが、ふと目の前から歩いてくる少女が目に入った。周りの人々の顔が殆どスクリーンに向いている中で、映画には全く興味が無いというように進行方向だけを見つめるその少女は、少女の目を惹いた。

人ごみの中、少女とすれ違う。
少女は色白で、昼間の街道が恐ろしく似合わなかった。身に纏う制服には見覚えが無い。
すれ違ってからなんとなく気になり後ろを振り返ると、腰まである長い黒髪が彼女の動きに合わせて揺れているのが見えた。少女はなにか引っ掛かりを感じながらも、再び前を向いて歩き始めた。

長い髪の少女が、何気なく後ろを振り返る。視線を感じたような気がしたが、気の所為だったようだ。彼女もまた、前を向いて歩いていく。

二人はもう、二度と振り返ることは無かった。



こうして運命なんて不確かなものは終わっていく。
まるで初めから何事も無かったかのように。
だが、因果の絶ち切れた今こそを始まりとするならば、
誰も知らないあの切なく悲しい悲劇は―――



長い長い、わたし達のゼロの物語。

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