00000「教授と命」



わたしは生まれた時から、前世での感情を引き継いでいた。記憶までは無く、一体その感情がどこから来るものなのかまでは分からなかったが、ただ分かることが一つ。わたしは、誰かを探していた。

前世での大切な誰かを今生で探すなど、なんとも途方の無いことだが、幼いころから私はそのたった一人を探し続けた。顔など分からない。声など分からない。ただ、探すべくして探すのだ。その内、わたしはその人のヒントを、過去に探るようになっていった。前世で知る人ならば、過去に何らかのヒントがあるのではないかと考えたのだ。
それからわたしは、人々がまだ地上と地下に住み分けていた頃から現代に至るまで、ありとあらゆる歴史を学んだ。病気のように学んだ。気が付けばわたしは大学の教授となっており、博士号まで手にしていた。考古学の第一人者として、立場を確立していった。

それでも君を見つけることは出来ず、今、わたしの今生は幕を閉じようとしている。
もしかすると、君とはどこかですれ違っていて、わたしが気付けなかっただけかもしれない。それとも、まだ踏み入れたことのない未知の地に、君は居るのだろうか。君は、わたしを覚えているのだろうか。わたしは、君を覚えているのだろうか。出会うことが出来れば、分かるのだろうか。

「青木博士!」
助手の鈴木が、悲痛な声でわたしの名前を呼んでいる。ああ、彼はとても良い助手だった。真面目でよく働き、わたしの当てのない人探しを笑わずにいてくれた。どうか、幸せに。

苦しみは無かった。ただ、眠いようなそんな感覚で、全てを投げ出したかった。そんな時、耳に赤ん坊の泣き声が聞こえて、わたしは驚いてうっすら目を開けた。視界に映るのは、恰幅の良い女性に抱かれた赤ん坊。

「博士!ようやく、ようやく妻に子供ができたんです!俺の娘です!見てやってください!」
赤ん坊を抱いた彼の奥さんがわたしに歩み寄ると、赤ん坊の顔がはっきりと見えてきた。赤ん坊はわたしと目が合うと、途端に泣き止みキャッキャッと楽しそうに笑った。その様子に鈴木と奥さんは驚いた様に目を丸くしている。

(ああ……見つけた……。神とは何と残酷なのだ)

君が、まだ生まれていなかったなんて。
そして、わたしが死ぬ時になって会わせてくれるなんて。
目から熱いものが零れ落ちた。わたしは、赤ん坊の楽しそうな笑い声を聞きながら、意識を奈落の底へと手放していった。

―――ああ、もしも次があるのならば、わたしは君と同じ時間に生きたい。

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